遺産分割協議って何をすればいいですか?

身内が亡くなったあと、避けて通れないのが「遺産の分け方」を決める話し合いです。
ニュースやドラマなどで「遺産相続で親族が揉めた」という話を聞くと、「うちは大丈夫だろうか…」と不安になる方も多いのではないでしょうか。 

特に初めて相続を経験する方にとって、「遺産分割協議」という言葉は、いかにも難しそうで身構えてしまうかもしれません。 

しかし、安心してください。遺産分割協議は、正しい手順を知り、ポイントを押さえて進めれば、決して怖いものではありません。
大切なのは「法律の決まり」と「家族への思いやり」を両立させることです。 

本コラムでは、相続の経験が一度もない方に向けて、遺産分割協議の基礎知識から具体的な準備・進め方のステップまで、分かりやすく解説します。 

1 遺産分割協議とは? 

一言でいえば、「亡くなった人(被相続人)の財産を、残された相続人全員でどのように分けるか話し合う会議」のことです。 

人が亡くなると、その人が持っていた現金、預貯金、不動産(土地・建物)、株式などの財産は、一時的に「相続人全員の共有財産」になります。
このままでは、銀行口座からお金を引き出すことも、実家を売却することも自由にできません。
そこで、「誰がどの財産を、どれだけもらうか」を明確に決める必要があり、そのための話し合いを「遺産分割協議」と呼びます。 

2 法定相続分どおりに分ける必要はある? 

法定相続分とは、民法で定められた相続割合のことです。 

しかし、これはあくまでも「法律上の目安」です。 

多くの方が誤解していますが、必ずしも法定相続分どおりに分ける必要はありません。 

相続人全員の合意があれば、自由に遺産を分けることができます。 

3 遺言書がある場合はどうなる? 

有効な遺言書がある場合には、原則として遺言書の内容が優先されます。 

例えば、「自宅は妻に相続させる」と遺言書に書かれていれば、その内容に従って手続きを進めます。 

ただし、遺言書に記載されていない財産がある場合や相続人全員が合意して遺言とは異なる分け方を希望する場合には、遺産分割協議を行うことがあります。 

4 遺産分割協議の大原則 

遺産分割協議で最も重要なルールは、「相続人全員が参加し、全員が同意しなければならない」ということです。 

たとえば、5人の相続人がいて、4人が「これでいこう!」と賛成していても、1人が「私は納得いかない」と反対していれば、その協議は成立しません。 

また、連絡が取れない親族を無視して勝手に進めた話し合いも、法律上は「無効」になります。
「全員の納得」が必要だからこそ、丁寧な進め方が求められるのです。 

5 遺産分割協議を始める前に準備すること

 「よし、みんなで集まって話し合おう!」と、いきなり机を囲むのはNGです。 

遺産分割協議を始める前には、必ず済ませておかなければならない3つの準備があります。
ここを怠ると、せっかくの話し合いがすべてやり直しになってしまうリスクがあります。 

(1)遺言書の有無を確認する

 遺言書があるかどうかで、その後の手続きは大きく変わります。 

自宅で保管されている遺言書だけでなく、法務局の自筆証書遺言保管制度や、公正証書遺言の有無も確認しましょう。 

(2)相続人を確定する(相続人調査) 

「私たちは家族だから、誰が相続人かなんて分かっている」と思いがちですが、法律上の手続きでは戸籍謄本による証明が絶対条件です。 

亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍謄本・除籍謄本を収集し、家系図を遡るようにして確認します。
なぜなら、残された家族が知らなかった「前妻との間の子」や「認知している子」が存在する可能性がゼロではないからです。
万が一、協議が終わったあとに「面識のない相続人」が見つかった場合、その協議は完全に無効になり、最初からやり直さなければなりません。 

(3)相続財産を調査する

 次に、分け合う対象となる財産の全体像を明らかにします。 

現金や預貯金だけでなく、以下のようなものもすべてリストアップし、「財産目録」を作成します。 

・プラスの財産: 土地・建物(不動産)、預貯金、株式・投資信託、車、貴金属、美術品など 

・マイナスの財産: 借入金、住宅ローン、未払いの税金、クレジットカードの未決済分など 

遺産分割の話し合いでは、プラスの財産だけでなく「マイナスの財産(借金)」も考慮する必要があります。 

もし借金があまりにも多い場合は、遺産分割協議をするのではなく、相続そのものを放棄する「相続放棄(3ヶ月の期限あり)」を検討すべきケースもあります。 

(4)財産の「今の価値」を評価する(財産評価)

 現金や預貯金は「1,000万円は1,000万円」と一目で価値が分かりますが、問題は不動産や株式です。 

 不動産は、購入したときの金額ではなく「時価(現在価値)」で評価する必要があります。
実家を誰が引き継ぐかを決める際、「この家はいくらの価値があるのか」が明確でないと、不公平感が生まれてしまいます。 

固定資産税評価額や路線価、あるいは不動産会社による査定などを利用して、事前に「目安となる金額」を算出しておきましょう。 

6 遺産分割協議の具体的な進め方 

準備が整ったら、いよいよ具体的な話し合いへと進みます。
スムーズに進めるための標準的な4つのステップを見ていきましょう。 

(1)財産目録を共有する 

まずは集まった相続人全員に、上記5(3)で作成した「財産目録」を提示します。 

「お父さんの財産は、これこれこれだけで、合計でこれくらいの金額になります」という事実を、全員が同じ情報として共有することがスタートです。隠し事をせず、透明性を高めることが信頼関係を生みます。 

(2)それぞれの希望や事情をヒアリングする 

次に、各相続人がどのような希望を持っているかを確認します。 

「長男である自分が実家を守りたい」、「次女は遠方に住んでいるので現金が欲しい」、「高齢の母が今後の生活費のために多めにもらうべきだ」など、それぞれの生活状況や希望を出してもらいます。 

遠方に住んでいる場合には、電話やオンライン会議を利用してヒアリングしましょう。 

(3)分割の方法を決定する(4つのアプローチ) 

全員の希望を聞きながら、具体的な分け方を決めていきます。 

遺産の分け方には、法律で認められた以下の4つの方法があります。 

財産の種類や家族の事情に合わせて、これらを組み合わせるのが一般的です。 

分割方法 概要 メリット デメリット 
① 現物分割 「長男は実家、長女は預貯金」というように、財産をそのままの形で分ける方法 手続きがシンプルで、最も分かりやすい 財産の価値に差がある場合、不公平になりやすい 
② 代償分割 特定の人が実家などの大きな財産をもらう代わりに、他の人に自分のポケットマネーから現金を支払う方法 実家を手放さずに、公平な金額に調整できる 財産をもらう人に、相応の資金力(現金)が必要 
③ 換価分割 不動産などの財産を一度すべて売却して現金化し、その現金を分け合う方法 1円単位まで完全に公平に分けることができる 売却のための手間や手数料、税金(譲渡所得税)がかかる 
④ 共有分割 1つの財産(主に不動産)を、複数の相続人で「共有名義」として持ち合う方法 話し合いがまとまらない時の応急処置になる 将来、売却やリフォームをする際に全員の同意が必要になり、トラブルの火種になる 

(4)合意し、遺産分割協議書を作成する

 全員が「この分け方で納得した」となったら、協議は成立です。
その合意内容を証明するために、必ず「遺産分割協議書」という書面を作成します(詳しい書き方は別のコラムでご紹介します)。 

7 まとめ 

遺産分割協議は、単に財産を分けるための手続きではなく、故人の財産を相続人全員が納得できる形で引き継ぐための大切な話し合いです。 

円満に進めるためには、まず遺言書の有無を確認し、相続人や相続財産を正確に把握したうえで、全員が同じ情報を共有しながら話し合うことが重要です。 

また、法定相続分はあくまでも基準であり、相続人全員の合意があれば、それぞれの事情に応じた柔軟な分割方法を選ぶことができます。 

一方で、相続人が一人でも欠けていたり、十分な調査を行わずに協議を進めたりすると、せっかくの合意が無効になってしまう可能性もあります。
相続は人生で何度も経験するものではないため、不安や疑問を抱くのは当然です。 

しかし、基本的な流れを理解し、焦らず一つひとつ準備を進めることで、多くのトラブルは防ぐことができます。 

遺産分割協議を通じて、故人の意思を尊重しながら、ご家族がこれからも良好な関係を築いていけるよう、冷静で誠実な話し合いを心掛けましょう。