公正証書遺言って何ですか?

「自分が亡くなった後、家族が相続で揉めないようにしたい」、「お世話になった人にも財産を残したい」、「子どもたちに自分の思いを伝えておきたい」。
そのような気持ちから、遺言書の作成を考え始める方は少なくありません。
しかし、いざ遺言書を書こうと思っても、「どのように書けば法的に有効なのか」、「間違った書き方をして無効にならないか」と不安を感じる方も多いでしょう。
遺言書にはいくつか種類がありますが、初めて遺言書を作成する方に最もおすすめしたいのが「公正証書遺言」です。
公正証書遺言は、法律のプロである「公証人」が関与して作成するため、「無効になりにくく、確実に自分の意思を残せる」という大きなメリットがあります。
この記事では、初めて遺言書を作成する方に向けて、公正証書遺言の基本知識からメリット・デメリット、具体的な作成の流れ、費用相場、失敗しないポイントまで、わかりやすく丁寧に解説します。
1 公正証書遺言とは?
公正証書遺言とは、法務大臣から任命された法律の専門家である「公証人」が、遺言を残す人(遺言者)の意思を確認しながら作成する、公的な遺言書のことです。
遺言者が希望する内容を公証人に伝え、その内容をもとに、公証人が法律に従って遺言書を作成します。
2 公正証書遺言のメリット
遺言書を作る人の多くに公正証書遺言が選ばれています。その理由をご紹介します。
① 法律上の不備で無効になるリスクがない
自分で遺言書を書く場合、「日付が抜けている」、「押印の種類が違う」、「文言が曖昧で誰に何を渡すか特定できない」といった原因で、せっかく書いた遺言書が無効になってしまうケースが後を絶ちません。
公正証書遺言であれば、弁護士や裁判官・検事などの実務経験を持つ法律のプロ(公証人)が内容を確認して作成するため、書き方の不備によって無効になる心配がほぼありません。
② 紛失・改ざん・隠匿の心配がない
作成された公正証書遺言の「原本」は、公証役場で原則20年間(実務上は100歳や120歳に達するまでなど、ほぼ永久的)にわたって厳重に保管されます。
遺言者の手元に渡されるのは「正本」や「謄本」という控えのような書類です。
そのため、仮に手元の書類をなくしてしまったり、火災や水害に遭ったりしても、公証役場で再発行が可能です。
また、悪意のある相続人に隠されたり、書き換えられたりする心配も一切ありません。
③ 相続発生後の「検認」手続きが不要
自筆証書遺言の場合、遺言者が亡くなった後、相続人は家庭裁判所に遺言書を持参して「検認」という検認手続きを受けなければなりません。
これには1〜2ヶ月ほどの期間がかかり、戸籍の収集など大変な労力を伴います。
公正証書遺言なら検認手続きが一切不要です。
遺言者が亡くなった後、すぐに不動産の名義変更や預貯金の解約手続きへ移ることができるため、残された家族の手続き負担を大幅に軽減できます。
④ 病気や高齢で字が書けなくても作成できる
「高齢になり手が震えて字がうまく書けない」、「病気で文字を書くのが体調的につらい」という場合でも、公正証書遺言なら問題ありません。
遺言者が口頭で公証人に希望を伝えられれば、公証人が代わりに文章を作成してくれます。
体調が優れず公証役場に行けない場合は、公証人に自宅や病院へ出張してもらうことも可能です。
⑤ 相続トラブルを防ぎやすい
遺言書の内容が曖昧だったり、財産の分け方が明確でなかったりすると、相続人同士の争いにつながるおそれがあります。
公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が内容を確認し、法的に問題のない形で作成するため、解釈の違いや手続上のトラブルを防ぎやすいという特徴があります。
3 公正証書遺言のデメリット
非常にメリットの多い公正証書遺言ですが、事前に知っておくべき注意点もいくつか存在します。
① 費用(手数料)がかかる
完全無料で作成できる自筆証書遺言とは異なり、公証人に支払う手数料や、必要書類の発行費用などがかかります。
費用は「遺言に残す財産の額」や「受遺者(財産をもらう人)の人数」によって変わります。
② 証人が2名必要
公正証書遺言を作成する当日は、利害関係のない「証人」2名の立ち会いが必要です。
「家族や親戚に頼めばいいのでは?」と考えがちですが、財産をもらう予定のある人やその配偶者・直系血族は、利害関係者にあたるため証人になることができません。
友人に依頼するか、公証役場や行政書士・司法書士などの専門家に証人の手配(有料)を依頼するのが一般的です。
③ 事前準備に少し時間と手間がかかる
「今日思い立って今日作る」ということはできません。
公証人と打ち合わせを行い、戸籍謄本や不動産の登記簿などの必要書類を揃える必要があるため、完成までに早くて2週間、通常1ヶ月〜2ヶ月程度の期間が必要です。
4 公正証書遺言の作成手順
実際に公正証書遺言を作成する際の流れを、ステップ順に解説します。
① ステップ1 財産と相続人の整理
まずは「自分がどんな財産をどれくらい持っているか」、「誰に何をどれだけ譲りたいか」を整理します。
・財産:預貯金(銀行名・支店名)、不動産(自宅・土地)、株式、自動車など
・渡す相手:配偶者、子ども、孫、お世話になった人、保護団体への寄付など
② ステップ2 必要書類の収集
公証人に提出するための公的書類を準備します。主な書類は以下の通りです。
・遺言者本人の印鑑証明書および戸籍謄本
・財産をもらう人の戸籍謄本(親族の場合)または住民票(第三者の場合)
・不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)および固定資産評価証明書
・預貯金通帳のコピーや有価証券の案内など
・証人2名の住民票(または氏名・住所・生年月日がわかるメモ)
③ ステップ3 公証役場への相談・文案作成
書類が揃ったら、最寄りの公証役場に連絡して事前相談の予約を取ります(全国どこの公証役場でも作成可能です)。
公証人に「誰にどの財産をどれだけ遺したいか」という希望を伝え、公証人に遺言書の原案(文案)を作成を依頼します。
その後メール等でやり取りをしながら、内容に間違いがないか確認していきます。
④ ステップ4 証人2名の確保
作成当日に立ち会ってもらう証人2名を決定します。
知り合いに頼むのが難しい場合は、公証役場に「証人を紹介してください」と頼めば、1人あたり数千円〜1万円程度の手数料で手配してくれます。
⑤ 公証役場での作成当日
いよいよ作成当日です。遺言者と証人2名が揃って公証役場へ向かいます。
1 意思確認
公証人が遺言者に対し、遺言の内容(または文案)を読み聞かせます。
2 内容の承認
遺言者と証人が内容に間違いがないことを確認します。
3 署名・押印
遺言者と証人2名、そして公証人がそれぞれ署名し、押印します。
4 手数料の支払い・控えの受け取り
手数料を支払い、遺言書の「正本」と「謄本」を受け取って完了となります。
5 証人になれない人
次の人は証人になることができません。
証人の選定が難しい場合には、専門家に依頼するのがいいでしょう。
・未成年者
判断能力が不十分とされ、証人にはなれません。
・相続人
遺言者が亡くなった際に相続権を持つ人は、利害関係があるため証人にはなれません。
・受遺者
遺言によって財産を受け取る人も同様に、利害関係があるため証人にはなれません。
・その配偶者や直系血族
相続人や受遺者の配偶者、直系血族も利害関係者とみなされ、証人にはなれません。
・公証人の配偶者や四親等内の親族
公証人に近い関係にある人も証人には適していません。
・公証役場の書記や雇人
公証人の職務に関与する人も証人にはなれません。
5 公正証書遺言を作成する際のポイント
遺言書作成でよくある失敗を防ぎ、残された家族が円満に相続できるようにするための重要ポイントを3つご紹介します。
① 「遺留分」に配慮する
法律では、配偶者や子どもなどの法定相続人に対して、「最低限もらえる遺産の取り分(遺留分)」が保障されています。
例えば「すべての財産を愛人に譲る」、「長男にだけ全財産を渡し、次男にはゼロ」といった偏った遺言にすると、遺言者が亡くなった後に相続人同士で「遺留分侵害額請求」というドロドロの金銭トラブルに発展してしまう可能性があります。
トラブルを防ぐためにも、遺留分に配慮した配分を心がけましょう。
② 「遺言執行者」を指定しておく
「遺言執行者」とは、遺言者が亡くなった後に遺言書通りの内容を実現するために必要な手続きを行ってくれる人のことです。
遺言書の中で「遺言執行者として〇〇を指定する」と書いておくことで、相続が発生した際、預貯金の解約や不動産の名義変更をその人1人の権限でスムーズに進めることができます。
信頼できる親族や行政書士・司法書士などの専門家を指定しておくと安心です。
③ 「付言事項」で感謝の気持ちを伝える
遺言書には、財産の分配といった法律的な内容だけでなく、最後に家族へのメッセージを残せる「付言事項」という欄があります。
「なぜこのような財産配分にしたのかという理由」、「これまで家族を支えてくれたことへの感謝の気持ち」、「自分が逝った後も家族みんなで仲良く暮らしてほしいという願い」などを書きます。
自分の言葉で書いておくことで、あなたの「温かい思い」が家族に伝わり、納得感をもって遺言を受け入れてもらいやすくなります。
6 まとめ
公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が作成に関与するため、形式上の不備によって無効になる心配がほとんどなく、紛失や改ざんのリスクもない、非常に信頼性の高い遺言書です。
また、相続開始後に家庭裁判所での検認手続きが不要であるため、残された家族の負担を軽減し、相続手続きを円滑に進めることができます。
一方で、作成には費用や時間がかかり、証人を用意しなければならないなどの注意点もあります。
しかし、自分の意思を確実に実現し、将来の相続トラブルを防ぐためには、大きなメリットがある制度といえるでしょう。
遺言書は、「まだ早い」と思っているうちに、病気や事故などで作成が難しくなってしまうこともあります。
大切な家族への思いや感謝の気持ちを形にし、安心して財産を引き継いでもらうためにも、元気なうちから公正証書遺言の作成を検討してみてはいかがでしょうか。
