自筆証書遺言のテンプレート

「自分が亡くなった後、家族が相続で争わないようにしたい」、「お世話になった人にも財産を残したい」と考え、遺言書の作成を検討する方は少なくありません。
遺言書にはいくつかの種類がありますが、最も手軽に作成できるのが「自筆証書遺言」です。
自筆証書遺言とは、遺言者本人が自分で書く遺言書のことをいいます。
もっとも、自筆証書遺言は法律で定められた方式を守らなければ無効になってしまうおそれがあります。
そのため、「とりあえず書いてみよう」という気持ちだけで作成すると、せっかく残した遺言が役に立たないこともあります。
このコラムでは、初めて遺言書を書く方に向けて、自筆証書遺言を作成する際のポイントや注意点、そして実際に利用できるテンプレートをわかりやすく解説します。
1 自筆証書遺言を書く前に準備すること
自筆証書遺言は法律で厳格な書き方が定められており、準備不足のまま書いてしまうと、「記載内容が不正確で名義変更に使えない」、「家族間でトラブル(争族)が起きてしまう」、「書き直しが必要になる」といった事態になりかねません。
スムーズで確実に効力のある遺言書を作成するために、まずは以下の準備から始めましょう。
(1)相続人を確認する(法定相続人の把握)
最初に行うべきは、「自分が亡くなった際、法律上だれが相続人になるのか(法定相続人)」を正しく把握することです。
この把握が必要である主な理由は、以下の2つです。
① 遺言がなかった場合の基本ルールを知るため
法定相続人とその相続分(法定相続分)を知ることで、「誰にどれくらい多めに残すべきか」という遺言のベース(比較対象となる基準)ができます。
② 「遺留分(いりゅうぶん)」を持つ人を把握するため
配偶者や子ども、親などの直系尊属には、法律上最低限保障された取り分(遺留分)があります。
遺留分を持つ相続人を無視した遺言を書くと、将来的に親族間で金銭トラブル(遺留分侵害額請求)が発生する原因になります。
そのため、相続人を整理しておくことで、後のトラブルを防ぐことができます。
(2)財産を一覧にする
次に、ご自身が所有しているプラスの財産だけでなく、マイナスの財産(負債)も含めてすべて洗い出し、一覧リスト(財産目録の素案)を作ります。
休眠口座や使っていないクレジットカード、デジタル資産(ネット証券やスマホ決済の残高)なども忘れずに記載しましょう。
① プラスの財産
・不動産: 自宅の土地・建物、賃貸物件、田畑、山林、マンションなど
・預貯金: 各銀行・信用金庫・郵貯の口座(普通・定期・当座)
・有価証券: 株式、投資信託、国債・社債など
・動産・その他: 自動車、貴金属、骨董品、ゴルフ会員権、暗号資産(仮想通貨)など
② マイナスの財産(忘れがちなポイント)
・住宅ローン、自動車ローン、カードローン、知人からの借入金など
・連帯保証人になっている債務
(3)誰に何を残すか決める
財産を整理したら、「誰に何を残したいのか」を考えます。
以下のように、それぞれの事情に応じて決めていきます。
・妻には自宅を残したい
・長男には事業を引き継いでもらいたい
・長女には預金を相続させたい
・孫の教育費として現金を残したい
なお、不動産は簡単に分けることができないため、特に慎重に検討する必要があります。
また、次のような事情がある場合には、遺言書の必要性が高くなります。
・特定の子どもが親の介護を長年担っていた
・家業を継ぐ子どもがいる
・再婚している
・内縁のパートナーがいる
・相続人以外に財産を渡したい人がいる
ただし、一人に多くの財産を集中させると、他の相続人との間で不公平感が生じることもあります。
遺言書を作成する際には、法律で保障されている「遺留分」にも配慮することが大切です。
(4)家族への思いや希望を整理しておく
遺言書は、財産の分配だけを決める文書ではありません。
家族への感謝や、自分が亡くなった後の願いを伝える役割もあります。
たとえば、
・長年支えてくれた配偶者への感謝
・子どもたちへの励ましの言葉
・家族仲良く暮らしてほしいという願い
・介護をしてくれた人への感謝
・葬儀や法要についての希望
などを整理しておくとよいでしょう。
これらの内容は、「付言事項」として遺言書に記載することができます。
付言事項には法的な効力はありませんが、遺言者の気持ちを家族に伝える大切な役割があります。
特に、財産の分け方に差がある場合には、「なぜそのような内容にしたのか」を説明しておくことで、残された家族が遺言者の真意を理解しやすくなります。
2 自筆証書遺言を作成する際のポイント
民法により、自筆証書遺言を有効にするためには以下の絶対条件があります。
どれか一つでも欠けると無効になるため、注意してください。
(1)本文は必ず手書きで作成する
遺言書の本文は、本人が手書きしなければなりません。
パソコンで本文を作成したり、家族が代筆したりした場合、原則として無効になります。
ボールペンや万年筆など、消えない筆記具で書きましょう。
なお、添付する「財産目録」については、パソコン作成や通帳のコピー、登記簿謄本の添付でも認められます。
ただし、財産目録の全ページに自筆で署名・押印をする必要があります。
(2)日付を正確に書く
日付は、「令和8年7月31日」のように、年月日を具体的に記載する必要があります。
「令和8年7月吉日」などの記載は認められません。
(3)氏名を書き、押印する
氏名を自書し、印鑑を押します。
認印でも有効ですが、後日のトラブル防止のため、実印を使用することをおすすめします。
(4)財産は具体的に記載する
財産を特定できるように書きましょう。
良い例
「○○銀行○○支店普通預金(口座番号〇〇〇〇)を妻○○に相続させる。」
悪い例
「預金を妻に相続させる。」
(5)訂正方法に注意する
遺言書の訂正には厳格なルールがあります。
修正液で消したり、二重線を引いただけでは無効になる可能性があります。変更箇所には所定の方法で署名押印が必要です。
書き間違えた場合は、最初から書き直した方が安全です。
3 一般的な自筆証書遺言のテンプレート
【配偶者と子どもに相続する場合】
遺 言 書
遺言者 〇〇 〇〇は、以下のとおり遺言する。
第1条(不動産の相続)
遺言者は、その所有する以下の不動産を、遺言者の妻 〇〇 〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。
(1)土地
所 在:東京都〇〇区〇〇町一丁目
地 番:100番1
地 目:宅地
地 積:150.00平方メートル
(2)建物
所 在:東京都〇〇区〇〇町一丁目100番地1
家屋番号:100番1
種 類:居宅
構 造:木造瓦葺2階建
床 面 積:1階 80.00平方メートル
2階 60.00平方メートル
第2条(預貯金の相続)
遺言者は、以下の預貯金を、遺言者の長男 〇〇 〇〇(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。
(1)〇〇銀行 〇〇支店 普通預金 口座番号 1234567
(2)△△銀行 △△支店 定期預金 口座番号 7654321
第3条(その他の財産の指定)
遺言者は、前各条に記載のないその他のいかなる遺産(動産、金銭等を含む)も、すべて妻 〇〇 〇〇に相続させる。
第4条(遺言執行者の指定)
遺言者は、この遺言の執行者として、長男 〇〇 〇〇を指定する。
令和〇年〇月〇日
東京都〇〇区〇〇町一丁目2番3号
遺言者 〇〇 〇〇 印
4 付言事項のテンプレート
遺言書には、法的効力はありませんが、家族への思いを伝える「付言事項」を書くことができます。
【付言事項例】
① 例1
私が今日まで平穏に暮らしてこられたのは、家族の支えがあったからです。
お母さんには長年苦労をかけました。本当に感謝しています。
子どもたちには、それぞれの事情を考慮して今回の内容を決めました。
決して愛情に差があるわけではありません。
私の死後も、家族みんなが仲良く助け合って暮らしてくれることを心から願っています。
② 例2
お父さんは、お母さんと〇〇(長男)と一緒に過ごせた人生をとても幸せに思っています。
お母さんと協力して、これからも仲良く助け合って暮らしていってください。今までありがとう。
③ 例3
兄弟の皆さんへ。これまで親身に接してくれてありがとう。
私の亡き後、妻△△が安心して暮らせるよう、このような遺言にしました。
どうか遺言者の意を汲み、温かく見守ってください。
5 まとめ
自筆証書遺言は、思い立ったときにすぐ作成できる手軽さが魅力ですが、法的な要件を満たさなければ効力を失ってしまう書類でもあります。
トラブルのない確実な遺言書を残すためには、「相続人と財産の正確な把握」といった事前の準備を丁寧に行い、手書きや日付・署名押印などのルールを厳格に守ることが欠かせません。
また、分け方だけでなく「付言事項」に感謝や意図を添えることで、残されたご家族の納得感はより高まります。
今回ご紹介したテンプレートやポイントを参考に、ご自身やご家族にとって最適な遺言書を作成し、円満な相続への備えてみてはいかがでしょうか。
※自筆証書遺言については、「自筆証書遺言って何ですか?」をご参照ください。
