遺言できることって何ですか?

最近では、「自分の亡き後、家族が揉めないように遺言書を残しておきたい」、「お世話になった人や孫にも、少し財産を分けてあげたい」などと考えて遺言書を作る方が増えています。 

しかし、ここで多くの方が陥る大きな落とし穴があります。
それは「遺言書に書いたことが、すべて法的な強制力を持つわけではない」ということです。 

「家族みんなで仲良く暮らしてほしい」、「長男は実家を守り、次男に定期的に生活費を渡してあげてほしい」といった願いをいくら熱心に遺言書に書いても、法律上の強制力(法的効力)はありません。 

遺言書によって法律上の効力を発生させられる内容は、民法をはじめとする法律で厳格に定められています。 

そのため、遺言書を作成する際には、法的効力がある事項とそうでない事項を正しく理解しておくことが重要です。 

このコラムでは、法的効力のある遺言事項について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。 

1 法的効力のある遺言事項とは

 法的効力があるとは、一言で言えば「その内容に強い法的拘束力が生じ、相続人や関係者がそれに従わなければならなくなる」ということです。 

たとえば、法律上「配偶者と子ども2人が相続人の場合、分け方は配偶者が2分の1、子どもが4分の1ずつ(法定相続分)」と決まっています。 

しかし、法的効力のある遺言書で「長男にすべての財産を譲る」と書き残されていれば、原則として法律が定める割合よりも「遺言書の指定」が優先されます。 

もし遺言書に書いた内容に法的効力がない場合、それは「単なる故人の願望・お願い」として扱われます。
受け取った家族がその通りにしてくれれば良いですが、拒否されてしまえばそれ以上強制することはできません。 

だからこそ、自分の意図通りに財産や家族の未来を守るためには、「何に法的効力があり、何に効力がないのか」を正しく把握しておく必要があるのです。 

その「法的効力のある遺言事項」は、大きく分けると以下の3つのカテゴリーに分類されます。 

・相続・財産の処分に関する事項(誰にどれだけ配分するか)  

・身分に関する事項(家族関係や子どもの認知など)  

・遺言の執行に関する事項(遺言通りに進めるための手続き指定)  

それぞれ具体的にどのようなことができるのか、詳しく見ていきましょう。 

2 相続・財産の処分に関する事項

 遺言書を作成する最大の目的は「財産の分け方を決めること」です。これらにはすべて強力な法的効力があります。 

(1)相続分の指定・指定の委託

 民法では、相続人が取得する割合(法定相続分)が定められています。 

しかし、遺言によって法定相続分とは異なる割合を指定することができます。
例えば、「長男に全財産の70%、長女に20%、次男に10%」というような指定も可能です。 

これにより、家族の状況や介護への貢献、事業承継などを考慮して割合を決めることができます。 

また、信頼できる第三者に「分け方の決定」を任せる(委託する)ことも可能です。 

(2)遺産分割方法の指定・指定の委託

 誰にどの財産を相続させるかを具体的に指定できます。 

例えば、「自宅は長男、預貯金は長女、投資信託は次男」というような指定です。 

これは、実務上、争族トラブルの予防に最も効果的です。 

「特定財産承継遺言(財産ごとに取得者を決める遺言)」として書くことで、遺産分割協議が不要になるだけでなく、ダイレクトに名義変更などの手続きが進められます。 

(3)遺産分割の一定期間の禁止 

遺言では、相続開始後一定期間、遺産分割をしないよう指定することもできます。 

民法では、相続開始から最長5年間まで遺産分割を禁止できます。 

例えば、「配偶者が自宅に住み続けられるようにしたい」、「事業承継が落ち着くまで分割を避けたい」、といった場合に利用されます。 

(4)特別受益の持ち戻し免除

 生前に特定の子供にだけ資金などを援助していた場合、通常は相続時にそれを「先払い分」として計算し直し(持戻し)、相続額を調整します。 

この持ち戻しをしないように、遺言によって「生前贈与分は計算に含めなくてよい」と指示することができます。 

例えば、「長男に生前贈与した住宅資金〇〇万円について、特別受益の持戻しを免除する」などと記載します。 

(5)遺留分侵害額の負担順序の指定

 「特定の人だけに多くの財産を残す」ような遺言を書いた場合、残された他の相続人は最低限の取り分(遺留分)を請求する権利を持ちます。 

その請求をされた際、「どの財産・どの人から優先的に支払うか」の順番を指定できます。 

(6)遺贈 

法定相続人以外の第三者に財産を無償で与えることができます。 

法定相続人ではない人物(内縁のパートナー、孫、息子の嫁、友人、団体など)に財産を残したい場合は、必ずこの「遺贈」を遺言書に記載する必要があります。 

例えば、「内縁の妻にマンションを遺贈する」、「長年の介護でお世話になった長男の妻に〇〇万円与える」、「お世話になった公益法人に全財産を寄付する」などと記載します。 

(7)寄付 

財団法人や社会福祉法人、学校法人、公益法人などへ財産を寄付することも可能です。 

近年、遺言で寄付による社会貢献を希望する方が増えています。 

3 身分に関する事項

 遺言書は、身分上の手続きにも法的効力を持ちます。
生前には様々な事情で行いにくかったことを、死後に実現する手段となります。 

(1)子の認知

 婚姻関係にない女性との間に生まれた子どもは、父親が認知しなければ法律上の親子関係は成立しません。 

認知は生前に行うこともできますが、遺言によって死後に認知することも認められています。 

遺言によって認知された子どもは、死亡時に遡って正当な「法定相続人」となります。
生前に認知すると本妻や他の子どもとトラブルになる恐れがある場合などに、遺言での認知が選ばれます。 

(2)相続人の廃除とその取消し 

自分に対して虐待をしたり、著しい侮辱を与えたりした相続人から「相続権そのものを剥奪する(廃除する)」よう家庭裁判所に請求することを、遺言で指定できます。 

逆に、過去に行った廃除を取り消すことも可能です。 

廃除された相続人は、一切の遺産を受け取れなくなり、遺留分すら失います。 

(3)未成年後見人・未成年後見監督人の指定 

自分が亡くなった時点で親権者が一人もいなくなってしまう未成年の子どもがいる場合、代わりに親権を行使してくれる「未成年後見人」を指定できます。 

自身が最後の親権者で未成年の子がおり、自身が亡き後の親代わりとして、例えば「信頼できる叔父」を指定しておくケースなどです。 

4 遺言の執行に関する事項

 遺言書を書いても、残された家族がその通りに動いてくれなければ意味がありません。
スムーズな実現のための指示も法的効力を持ちます。 

(1)遺言執行者の指定・指定の委託 

自分の死後、遺言書の内容通りに預貯金の解約手続きや不動産の名義変更、子どもの認知手続きなどを一人で進めてくれる権限を持つ人(遺言執行者)を指定できます。 

遺言執行者が選任されると、相続人は遺言の対象となった財産を勝手に処分できなくなります。
弁護士や司法書士などの専門家、あるいは信頼できる特定の相続人を指定するのが一般的です。 

(2)祭祀承継者の指定 

お墓、仏壇、系図などの「祭祀財産」を引き継ぎ、法要を取り仕切る人物を指定できます。 

祭祀財産は一般的な相続財産とは別枠として扱われ、遺産分割の対象にはなりません。 

(3)生命保険金の受取人変更 

意外と知られていませんが、遺言書によって生命保険金の受取人を変更することができます。 

ただし、保険会社への通知手続きなどの関係でトラブルになりやすいため、生前に保険会社で受取人変更手続きをしておく方が確実です。 

5 法的効力のない「付言事項」の重要性

 遺言には法的効力がない内容も自由に書くことができます。これを「付言事項(ふげんじこう)」と呼びます。 

例えば、 

・家族への感謝 
・財産の分け方の理由 
・介護へのお礼 
・家族への願い 
・今後の人生への応援 
などです。 

付言事項には法的拘束力はありませんが、相続人が遺言者の気持ちを理解しやすくなります。 

「なぜこのような財産の分け方をしたのか」が伝わることで、相続人間の不公平感が和らぎ、相続トラブルの防止につながることも少なくありません。 

そのため、実務では法的効果のある事項だけでなく、付言事項もあわせて記載することが強く推奨されています。 

6 まとめ

 遺言書は、ご自身の意図や思いを遺族へ届ける重要な手段です。 

しかし、どれほど熱意を込めて記載しても、法律上で定められた「法的効力のある遺言事項」でなければ法的拘束力は発生しません。 

財産の分配や遺贈、身分上の手続き、遺言執行者の指定など、法的効果を持つ事項を正確に盛り込むことが、トラブルを防ぎ確実な手続きを進めるための前提となります。 

その一方で、分け方の理由や感謝の気持ちを綴る「付言事項」を添えることで、残された家族の感情的な対立を和らげる大きな効果も期待できます。 

遺言書を作成する際は、法的効力のある事項と付言事項の双方の役割を正しく理解し、バランスよく記載することが大切です。
ご自身の意思を確実に形にし、大切なご家族の未来を守るために、ぜひ本コラムで紹介したポイントを役立ててください。