遺言を残したいのはどんな場合ですか?③(財産の内容編)

遺言書は、「誰に財産を引き継ぐか」を決めるためのものというイメージがありますが、実際には財産の種類や内容によって、その重要性は大きく変わります。
例えば、自宅不動産が財産の大半を占めている場合や、複数の金融機関に預貯金や有価証券を保有している場合、あるいは会社経営や個人事業を営んでいる場合には、遺産の分け方をあらかじめ決めておかないと、相続手続きが複雑になったり、家族間で思わぬトラブルが生じたりする可能性があります。
また、相続税の負担をできるだけ抑えたい場合や家族に知られていない財産・負債がある場合にも、遺言書は大きな役割を果たします。
このコラムでは、「財産の内容」に着目し、遺言書を作成しておくことが特に望ましい代表的なケースについてご紹介します。
1 財産の内容・所有状況に関するケース
(1)相続税対策を考慮した財産配分にしたい
一定以上の財産がある場合、遺産の分け方次第で納税額が数千万円単位で変わることがあります。
例えば「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例(自宅土地の評価額を最大80%減額)」などの節税特例を適用するには、特例の要件を満たす適切な相続人が対象の財産を取得する必要があります。
遺言書がないと協議がまとまらず、申告期限までに特例が使えずに高額な税金を納めるリスクが生じます。
税理士等の専門家と相談の上、税負担を最小限に抑える最適な配分パターンを遺言書で指定しておくことが、残された家族の財産を守るカギです。
(2)主な財産が「自宅不動産」のみで、現金が少ない
日本の家庭において最も多いトラブルが、財産の大部分を自宅不動産が占め、分けることのできる預貯金が少ないケースです。
不動産は現金の物理的な分割と異なり、簡単に切り分けることができません。
そのため「家を売って現金で分けるのか」、「誰か1人が住み続けて他の人には代償金を払うのか」で兄弟間の意見が割れ、激しい対立に発展しがちです。
遺言書を作成し、「自宅は同居する長男に相続させ、その代わりに長男から他の子どもへ一定の代償金を支払わせる」といった現実的な解決策を指定しておくことが、家を失う事態や家族の分断を防ぎます。
(3)預貯金や証券口座が複数あり、財産が多岐にわたる
複数の銀行口座、株式・投資信託を扱う証券口座、国債、不動産など、所有する財産が多岐にわたっている場合、死後に残された家族がそれらをすべて把握するのは至難の業です。
存在自体に気づけず、名義変更や解約が漏れてしまう危険性もあります。
遺言書を作成するプロセスで「財産目録」を正確に整理し、それぞれの財産を「どの口座の資金を誰にどれだけ渡すか」まで明確に書き残しておくことで、遺族は迷うことなく漏れのない手続きを進めることができます。残された家族の手間を軽減する大きな思いやりとなります。
(4)個人事業主または会社経営者である
経営者や個人事業主の場合、事業の継続と発展を守るために遺言書が絶対不可欠です。
自社株式や事業用の土地・建物・設備などの資産が複数の相続人に分散してしまうと、経営権が不安定になり、事業の意志決定がストップして倒産や廃業に追い込まれるリスクがあります。
そのため、後継者となる子どもや第三者に自社株式や事業用資産を集中的に承継させ、他の相続人には個人資産や現金を配分する内容の遺言を作成しておくことで、事業承継を円滑に進めることができます。
経営権の分散を防ぎ、事業の継続性を確保できるため、将来のさらなる事業発展にもつながります。
(5)有価証券や暗号資産などの価格が変動する財産が多い
株式、投資信託、暗号資産(仮想通貨)など、日々価格が大きく変動する資産を多く所有している場合、遺産分割協議で深刻な対立が起きやすくなります。
「亡くなった時点の評価額で分けるべきだ」、「手続きをする現在の評価額で分けるべきだ」といった基準日の違いで争いになりがちだからです。
遺言書によって「銘柄Aは長男に、銘柄Bは長女に配分する」、「暗号資産Cは次男に相続させる」と具体的に指定しておけば、価格変動による感情的なトラブルを防ぎ、価格に惑わされないスムーズな引き継ぎが可能になります。
(6)家族に知らせていない財産や借入金(負債)がある
家族に内緒にしている隠れた資産や、事業・個人での借入金(負債)、連帯保証人としての地位などがある場合、遺言書なしで亡くなると遺族に大きな混乱をもたらします。
特に負債が存在することを知らずに放置すると、遺族が意図せず借金を単純承認してしまい、大変な苦痛を背負うことになりかねません。
財産目録とともに遺言書を作成し、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債)の存在と処理方針を正しく開示しておくことで、遺族が「相続放棄」や「限定承認」などの適切な判断を期限内に行うことができます。
2 まとめ
財産の内容は人それぞれ異なり、それに応じて相続で起こりやすい問題も変わります。
不動産が中心の財産構成であれば分割方法が課題となり、事業用資産や自社株式があれば事業承継への影響も考えなければなりません。
また、有価証券や暗号資産のように価格が変動する財産や家族が把握していない資産・負債がある場合には、相続後の混乱を防ぐための準備が欠かせません。
遺言書を作成しておけば、自分の意思を明確に残せるだけでなく、相続税対策や手続きの円滑化、家族間の争いの予防にもつながります。
財産が複雑であるほど、早い段階から専門家と相談し、自分の財産状況に合わせた遺言書を準備しておくことが、残された家族への大きな思いやりとなるでしょう。

