相続人がいません。どうしたらいいですか?

近年は、「おひとりさま」や子どものいない夫婦の増加により、「相続人がいない」というケースが増えています。

何も対策をしないと、空き家や遺品の放置、葬儀や納骨の問題、財産が希望する相手に渡らないといったさまざまな問題が起こる可能性があります。 

さらに、預貯金や不動産の整理には家庭裁判所の手続きが必要となり、多くの時間と費用がかかることもあります。 

しかし、遺言書の作成や死後事務委任契約、生前整理などを行っておけば、自分の意思を実現しやすくなり、周囲への負担も軽減できます。

本コラムでは、相続人がいない場合に備えるための生前対策について、わかりやすく解説します。 

1 相続人がいないと起こりやすい問題 

「相続人がいないなら、最終的に国のものになるだけだから問題ない」と考える方もいるかもしれません。 

しかし、実際には相続人がいないことで、さまざまな現実的な問題が発生する可能性があります。 

① 空き家・遺品の放置 

不動産を所有している場合、相続人がいないと、その不動産を管理する人がいなくなります。 

相続財産管理人が選任されるまでの間、家が「放置空き家」となってしまうことも少なくありません。 

庭木の越境、雑草の繁茂、建物の老朽化などによって近隣住民に迷惑がかかっても、法的な権限を持つ人がいないため、すぐに対応できないケースがあります。 

また、賃貸住宅の場合には、大家さんが勝手に遺品を処分することができず、部屋を長期間明け渡せないことで損害が発生することもあります。 

このように、相続人がいないことで「空き家問題」、「老朽化」、「近隣トラブル」などにつながる可能性があります。 

② 葬儀・供養の不備 

身寄りがない場合、葬儀、火葬、納骨、お墓の管理などを誰が行うのかが問題になります。 

相続人がいないと、こうした死後の手続きを進める人がいなくなり、手続きが滞ってしまうことがあります。 

最終的には自治体が対応するケースもありますが、簡易的な火葬のみで終わる場合もあり、自分が希望していた供養が行われない可能性があります。 

③ 意思が反映されない 

「お世話になった人に財産を渡したい」、「応援している団体へ寄付したい」、「大切なペットの世話をお願いしたい」といった思いがあっても、何の対策もしていなければ実現できません。 

遺言書などがない場合、財産は法律に従って整理され、相続人や特別縁故者がいないと最終的には国庫に帰属することになります。 

長年築いてきた財産や人生の思いが、誰にも引き継がれないまま終わってしまう可能性があるのです。 

④ 遺品整理が進まない 

相続人がいない場合、家財道具や思い出の品が長期間放置されることがあります。 

特に近年は、スマートフォン、ネット銀行、ネット証券、暗号資産(仮想通貨)、サブスク契約、SNSアカウントなど、「デジタル遺品」の問題が増えています。 

ログイン情報がわからないことで解約や資産確認ができず、不要な料金が発生し続けるケースもあります。 

⑤ 預貯金や財産が長期間凍結される 

相続人がいない場合、銀行口座や証券口座などの財産は、すぐに整理できるわけではありません。 

家庭裁判所で相続財産管理人の選任手続きなどが必要になるため、財産の処分や解約までに長い時間がかかることがあります。 

その間、公共料金や固定資産税などの支払いが滞るケースもあり、財産管理がより複雑になる可能性があります。 

2 相続人がいない人が生前に行うべき対策 

相続人がいない場合こそ、「自分の希望を法的に形にして残しておくこと」が非常に重要です。 

事前にしっかり準備しておけば、「自分の意思を実現しやすくなる」、「周囲に迷惑をかけにくくなる」、「亡くなった後の手続きがスムーズになる」 といった大きなメリットがあります。 

ここでは、相続人がいない人が特に検討しておきたい代表的な対策を紹介します。 

(1)遺言書の作成 

まず1つは、遺言書の作成です。
最初に検討すべき最も重要な対策です。 

遺言書があれば、「誰に」「どの財産を渡すか(遺贈)」を自由に決めることができます。 

たとえば、 
・お世話になった友人 
・内縁の配偶者 
・介護をしてくれた人 
・支援したい団体 
などに財産を残すことが可能です。 

何も対策をしない場合、財産は最終的に国庫に帰属する可能性があります。 

また、相続財産清算人の選任など、長期間の法的手続きが必要になるケースもあります。 

そのため、自分の意思を確実に実現するためには、遺言書が非常に大切になります。 

① 公正証書遺言がおすすめ 

遺言書にはいくつか種類がありますが、特におすすめなのが「公正証書遺言」です。 

公証人が作成に関与するため、 
・偽造や改ざんのリスクが低い 
・法律上無効になりにくい 
・原本が公証役場に保管されるため紛失しない 
といったメリットがあります。 

特に相続人がいないケースでは、後々のトラブルを防ぐためにも、公正証書遺言が適しています。 

② 遺言執行者を決めておく 

遺言書を作成しても、実際に手続きを進める人がいなければ、内容を実現することができません。 

そこで重要になるのが「遺言執行者」です。遺言執行者とは、遺言内容を実際に実行する人のことをいいます。
具体的には、「預貯金の解約」、「不動産の名義変更」、「財産の分配」 などを行います。 

専門的な知識が必要になることも多いため、弁護士や司法書士などの専門家を指定するケースが一般的です。 

③「遺贈寄付」で社会に貢献する 

「自分の財産を社会のために役立てたい」と考える方には、「遺贈寄付」という方法があります。 

たとえば、以下のような団体へ寄付するケースがあります。 

・地域の自治体 
・大学や研究機関 
・NPO法人や公益法人 
・動物保護団体 
・環境保護団体 

自分の人生で大切にしてきた価値観を、亡くなった後も社会に残すことができる点が大きな特徴です。 

ただし、寄付先によっては、「不動産は受け取れない」、「現金のみ受付可能」、「条件付き寄付はできない」 などのルールがあります。 

そのため、事前に寄付先へ相談し、遺言書の内容を確認してもらうことが重要です。 

(2)死後事務委任契約

 遺言書で決められるのは、主に「財産の承継」に関する内容です。 

一方、亡くなった後には、財産以外にもさまざまな実務的な手続きが発生します。 

こうした死後の事務を、あらかじめ信頼できる人に任せておく契約を「死後事務委任契約」といいます。 

① 死後事務とは 

亡くなった後には、次のような事務が発生します。 

・葬儀、火葬、納骨 
・病院や介護施設への支払い 
・賃貸住宅の解約 
・携帯電話やインターネット契約の解約 
・遺品整理 
・行政への各種届出 

相続人がいない場合、これらを行う人がいなくなってしまうため、事前準備が非常に重要になります。 

② 誰に依頼するのか 

依頼先としては、弁護士、司法書士、行政書士、信頼できる知人などが一般的です。 

特に身寄りがない方は、専門家と契約しておくことで安心につながります。 

(3)公正証書による任意後見契約 

高齢になると、認知症などによって判断能力が低下する可能性があります。 

「任意後見契約」とは、将来判断能力が低下した場合に備えて、「誰に財産管理や生活支援を任せるか」をあらかじめ決めておく制度です。 

契約は公正証書で作成します。 

たとえば、預貯金の管理、介護施設との契約、各種支払い手続きなどを任せることができます。 

相続人がいない場合は、家族による支援を期待しにくいため、元気なうちから将来の管理体制を整えておくことが重要です。 

早い段階で専門家と契約しておくことで、将来への安心感が大きく変わります。 

(4)家族信託(民事信託) 

「家族信託」とは、信頼できる人に財産管理を任せる仕組みです。 

たとえば、「生前は自分の生活費として使い、亡くなった後は慈善団体へ寄付する」 といった柔軟な設計をすることも可能です。 

また、認知症対策として利用されることも多く、将来の財産管理を円滑に行いやすくなるメリットがあります。 

ただし、家族信託は契約内容の設計が複雑になりやすいため、弁護士や司法書士、税理士などの専門家へ相談しながら進めることが大切です。 

3 生前整理とその留意点 

相続人がいない場合には、「亡くなった後に誰が対応するのか」という問題が生じやすいため、生前整理が特に重要になります。 

生前のうちに財産や身の回りを整理しておくことで、死後の手続きがスムーズになり、周囲への負担やトラブルを大きく減らすことができます。 

(1)生前整理とは

 生前整理とは、自分が元気なうちに、財産や身の回りの情報を整理しておくことをいいます。 

特に相続人がいない場合には、誰も内容を把握できず、死後の手続きが進まなくなることもあるため、早めの準備が大切です。 

具体的には、次のような整理を進めておくと安心です。 

・不要品の処分 
・財産一覧の作成 
・通帳や証券口座の整理 
・保険契約の確認 
・ネット契約やサブスクの整理 
・パスワードやIDの管理 
・重要書類の保管場所の明確化 

情報を一覧化しておくことで、亡くなった後の混乱を防ぎやすくなります。 

(2)デジタル遺産への注意 

最近、特に問題になっているのが「デジタル遺産」です。 
デジタル遺産とは、たとえば次のようなものをいいます。 

・ネット銀行やネット証券 
・スマホ決済 
・SNSアカウント 
・クラウド保存データ 
・暗号資産(仮想通貨) 
・サブスク契約 
・ネットショップのポイントや電子マネー 

これらは本人しか把握していないケースが多く、家族や関係者が存在自体に気づけないこともあります。 

その結果、資産が放置されたり、不要な利用料金が引き落とされ続けたりするケースもあります。 

利用しているサービスやログイン情報を整理し、信頼できる人が確認できる状態にしておくことが重要です。 

(3)「おひとりさま」のお墓や仏壇はどうなる? 

相続人がいない場合、先祖代々のお墓を守る人がいなくなる可能性があります。 

そのまま放置すると、最終的に「無縁墓」となってしまうことがあります。 

そのため、生前のうちに供養方法を考えておくことが大切です。 

代表的な方法としては、以下のようなものがあります。 

・永代供養墓への改葬 
 → 寺院や霊園が継続的に管理・供養してくれる方法 

・樹木葬や散骨 
 → 管理負担を残しにくい供養方法 

・墓じまい 
 → 既存のお墓を撤去・整理すること 

また、仏壇についても、生前整理として「魂抜き(閉眼供養)」を行ったうえで、処分や引き取りを依頼しておくケースが増えています。 

(4)身元保証サービスの利用 

最近では、高齢者向けの「身元保証サービス」を利用する人も増えています。 

たとえば、次のような支援を受けられる場合があります。 

・入院時の保証人対応 
・介護施設入所時の支援 
・緊急連絡先の引き受け 
・死後事務の対応 
・葬儀や納骨の手配 

身寄りがない方にとっては、将来の安心につながるサービスといえます。 

ただし、中には高額な費用請求や不適切な運営が問題となっている事例もあります。 

契約する際は、以下のことを十分に確認し、信頼できる事業者を選ぶことが重要です。 

・サービス内容 
・費用体系 
・解約条件 
・財産管理の方法 

(5)重要書類の保管場所を明確にしておく 

生前整理では、「何を持っているか」だけでなく、「どこに保管しているか」を明確にしておくことも重要です。 

たとえば、次のような書類は特に重要です。 

・遺言書 
・保険証券 
・不動産関係書類 
・通帳やキャッシュカード 
・年金関係書類 
・契約書類 

これらの所在が不明だと、死後の手続きが大幅に遅れてしまう可能性があります。 

エンディングノートなどを活用して、保管場所を整理しておくと安心です。 

(6)ペットの将来も考えておく 

一人暮らしの方の場合、亡くなった後のペットの行き先が大きな問題になることがあります。 

特に犬や猫などは、飼い主がいなくなることで保護施設へ引き取られるケースも少なくありません。 

そのため、 

・誰に世話をお願いするのか 
・飼育費用をどうするのか 
・遺言書にどのように記載するのか 
などを事前に決めておくことが大切です。 

最近では、ペット信託や負担付遺贈などを利用するケースも増えています。 

4 専門家へ相談するタイミング 

「まだ元気だから」、「財産なんて大してないから」と先延ばしにするのが一番の懸念点です。
意思決定ができる今のうちに、以下のような専門家に相談を始めることをおすすめします。 

・弁護士: 遺言作成から死後事務、法的なトラブル解決まで 
・司法書士: 相続登記や任意後見契約の専門家 
・税理士:相続税対策の専門家 
・行政書士: 遺言書の起案や生前整理のサポート 
・信託銀行: 遺言信託などの金融商品による管理 

5 まとめ 

相続人がいない場合、「財産は最終的に国のものになるだけ」と考えられがちですが、実際には空き家問題、遺品整理、葬儀や供養、財産管理など、多くの課題が発生する可能性があります。
特に近年は、ネット銀行やSNS、暗号資産などの「デジタル遺産」の問題も増えており、何も準備をしていないと、周囲に大きな負担をかけてしまうことがあります。 

しかし、遺言書の作成、死後事務委任契約、任意後見契約、生前整理などを行っておけば、自分の希望を実現しやすくなり、亡くなった後の手続きも円滑に進めやすくなります。
また、遺贈寄付やペット対策などを通じて、自分らしい「人生の締めくくり」を形にすることも可能です。 

「まだ元気だから大丈夫」と後回しにせず、判断能力がしっかりしている今のうちから準備を始めることが大切です。
不安がある場合は、弁護士、司法書士、税理士などの専門家へ早めに相談し、自分に合った対策を検討していきましょう。