それ、勝手な思い込みじゃないですか?(投資家心理と投資行動④)

投資の世界というと、数字やデータに基づいた合理的なものだと思われがちです。
ところが、実際には人間の心理が大きく影響していて、冷静に判断したつもりでも感情や思い込みに揺らいでしまうことは少なくありません。 

特に個人投資家は、日々のニュースや市場の動きに敏感に反応しやすく、その結果、知らないうちに心理的なバイアスに左右されてしまうこともあります。 

だからこそ、自分の心のクセを理解し、行動を振り返ることが、長期的に安定した成果につながる大切なポイントになります。 

このコラムでは、投資判断をゆがめる「思い込み」に関わる代表的な心理的バイアスを取り上げ、それが投資行動にどう影響するのか、そしてどのように付き合えばよいのかを一緒に考えていきましょう。 

1 勝手な思い込みを誘導する心理的バイアス 

心理的バイアスは、客観的な視点を阻害して、勝手な思い込み・判断に誘導してしまいます。
この「心のクセ」を理解することが冷静な投資判断の第一歩になります。 

(1)確証バイアス 

確証バイアスとは、自分の信じたい情報ばかりを重視し、反対の証拠を無視してしまう心理的傾向です。
たとえば、ある銘柄に強い期待を抱いている投資家は、その企業の良いニュースには敏感に反応しますが、リスクを示す材料には目を向けにくくなります。
その結果、客観的なリスクを過小評価し、不適切な投資判断につながります。 

(2)選択的知覚 

人は自分の関心や期待に沿った情報を優先的に取り入れる傾向があります。
これを選択的知覚と呼びます。投資家であれば、自分が注目している業界や銘柄に関するニュースばかりを集め、その他の重要な情報を見逃すことが起こります。 

例えば、テクノロジー株に強い関心を持つ人は、その分野の明るい未来予測ばかりに注目し、規制強化や競争の激化といったリスク要因を軽視することがあります。 

(3)選択的記憶 

人は都合の良い記憶だけを残し、不都合な経験を忘れがちです。
これを選択的記憶といいます。投資家の場合、過去の成功体験ばかりを強く覚えており、失敗した取引や損失の記憶は曖昧になることがあります。
その結果、「自分は投資がうまくいくタイプだ」という過剰な自信を抱き、同じ失敗を繰り返してしまいます。 

(4)後知恵バイアス 

後知恵バイアスとは、結果が分かった後に「最初から予測できていた」と感じてしまう心理です。
たとえば、株価が下落した後に「やはり業績が悪化していたから当然だ」と考えるのは典型例です。
しかし、実際にはその時点で確実に予測できていたわけではなく、後から都合よく理由を付け足しているにすぎません。 

このバイアスは、自分の判断力を過信する原因になり、次の投資でも過度な自信をもたらします。 

(5)錯誤相関 

錯誤相関とは、実際には関連性のない事象の間に因果関係を見出してしまう傾向です。
たとえば、「あるニュースが出ると株価が必ず上がる」と思い込んだり、「月曜日に株を買うと利益が出やすい」といったジンクスを信じるケースが当てはまります。 

この思い込みは、合理的な判断を妨げ、誤った根拠に基づいた投資行動を引き起こします。 

(6)代表性バイアス(少数の法則) 

代表性バイアスとは、「ある出来事や事例が全体を代表している」、「小さなサンプルから得られた結果を全体にも当てはまる」と誤解してしまう心理的傾向です。
たとえば、急成長した企業の成功例を見て「同じ業界の企業も必ず成長するだろう」と思い込むケースや短期間の株価上昇を見て「この銘柄は今後も伸び続ける」と思い込むケースなどは代表性バイアスの典型です。 

このように、少数のデータから全体を推測する際にこのバイアスが働きやすく、誤った投資判断を導きます。

(7)インパクトバイアス

 インパクトバイアスとは、将来の出来事による感情の影響を過大評価する傾向です。
投資家は「この株が下がったら大変だ」と過度に不安になったり、「この投資が成功すれば人生が変わる」と過度に期待したりすることがあります。
実際には、時間が経つと感情は徐々に落ち着くものですが、当事者はその影響を大きく見積もりがちです。

(8)ナラティブ効果 

 ナラティブ効果とは、人が物語に強く影響される心理を指します。
投資の世界では「〇〇社の創業者が描く壮大なビジョン」や「新技術で社会を変える物語」に惹かれ、合理的な根拠よりもストーリーに基づいて投資判断をしてしまうことがあります。 

ストーリーは投資家の心を動かしますが、それが必ずしも将来の収益性を保証するわけではありません。 

2 心理的バイアスを乗り越えるための実践ポイント 

自分では冷静に判断しているつもりでも、実際には気づかないうちに心理的バイアスの影響を受け、思わぬ行動をとってしまうことがあります。 

そのような行動がなくなるように、個人投資家が投資に取り組む際に特に意識しておくべき注意点を整理しました。 

(1)自分の意見に固執しない 

投資判断では、自分の考えに都合のよい情報ばかりを重視してしまう傾向があります。
こうしたバイアスにとらわれると、冷静な判断が難しくなります。 
このような場合には、意識的に「反対意見」や「マイナス材料」を探すことが有効です。
たとえば「自分が間違っているとしたら、どんな理由が考えられるか」と問い直すことで、判断の偏りを修正しやすくなります。

(2)情報源の偏りを避ける 

 投資家は、自分の関心や期待に沿った情報ばかりを集めやすく、異なる視点を見落としがちです。
これでは市場を広く理解することができません。 

対策としては、幅広い情報源に触れることが不可欠です。
複数のメディアや専門家の意見を比較することで、偏った情報収集から脱却し、バランスの取れた判断につなげられます。 

(3)投資判断や結果を客観的に振り返る 

「選択的記憶」や「後知恵バイアス」が投資判断に影響すると、自分を過大評価して同じ失敗を繰り返す危険があります。 
これには、投資日記や取引記録を残すことが有効です。
数字や事実を記録することで、過去を客観的に振り返り、記憶の偏りを防ぐことができます。 

(4)根拠なき関連性を信じない 

「このニュースが出ると株価が上がる」といった思い込みは、実際には錯誤相関にすぎない場合が多いものです。
無関係な事象を結びつけて考えることは、誤った投資行動の原因になります。 

投資判断をする際には、相関と因果を混同しない視点を持つようにします。
きちんとデータを分析し、「偶然」を「必然」と誤解しない冷静さが求められます。 

(5)少数の事例に引きずられない 

一部の成功事例や目立つケースなどのわずかな事例から全体を推測すると、誤った判断につながります。 
これを防止するためには、統計的に十分なデータに基づいて判断することです。
一部の例に惑わされず、広い視野で投資対象を評価する姿勢が大切です。 

(6)物語に流されない 

企業や市場には魅力的な物語がつきものです。 
しかし、「感動的なビジョン」や「わかりやすいストーリー」に惹かれて投資判断をすると、冷静な分析を欠きやすくなります。 

ストーリーに共感することはあっても、必ず財務データや市場シェアといった客観的な指標を確認するようにしましょう。 

3 まとめ 

投資で本当に手強い敵は、市場の変動そのものではなく、自分自身の心理的なクセかもしれません。 

確証バイアスや選択的知覚で都合のよい情報ばかりを集めてしまったり、選択的記憶や後知恵バイアスで過去を都合よく解釈してしまうことがあります。 

さらに、錯誤相関や代表性バイアスにとらわれると、一部の出来事を全体に当てはめて誤った判断をしてしまいがちです。 

インパクトバイアスやナラティブ効果は感情に流されるきっかけにもなります。 

こうした心理は誰にでも起こりますが、「自分も影響を受けているかもしれない」と意識するだけで行動は変わります。
冷静さを保ち、客観的に自分を振り返ることこそ、長期的に成果を積み上げるための大切な力なのです。