金価格が上昇し続けているのはなぜですか?

近年、世界中で金(ゴールド)の価格が上昇を続けています。
ニュースでも「金価格が過去最高を更新」という見出しを目にする機会が増えました。
株式や不動産といった投資先に比べると、金は配当や利子を生みません。
それでもなお、世界中の投資家が資産の一部を金に振り向け、需要は高まり続けています。 

なぜ金はこれほど長い歴史の中で価値を持ち続け、そして現代でも価格を上げ続けているのでしょうか。
個人投資家が金投資を考えるうえでは、その理由や背景をしっかり理解しておくことが大切です。 

このコラムでは、金が価値を持つ理由から、価格上昇の背景、投資における注意点、そして今後の見通しまでをわかりやすく解説していきます。 

1 金が価値を持つ理由とは? 

金が価値を持つ理由を理解するには、「なぜ人々が金を特別視してきたのか」を考える必要があります。
株や債券のように収益を生まないにもかかわらず、金は長い歴史の中で「価値を保存する手段」として信頼を集めてきました。
そこには、金固有の性質があります。 

① 希少性 

地球上に存在する金の量は限られています。
新たに採掘される量はごくわずかで、急激に供給が増えることはありません。この「限られた資源」という性質が、価値を下支えしています。 

② 普遍的な需要 

金は古代から装飾品や通貨の代替物として使われてきました。
文化や国を超えて広く価値が認められているため、普遍性があるのです。 

③ 無国籍の資産 

株や債券は発行体に依存しますが、金はどの国にも属しません。
世界のどこでも価値を持ち、国の信用力に左右されにくいのが特徴です。 

④ インフレ耐性 

紙幣の価値が下がっても、金はその購買力を維持しやすいとされています。
歴史的に見ても、インフレが進む局面では金が資産防衛の役割を果たしてきました。 

2 金価格が上昇する背景 

このように、金は古くから人々にとって「価値を守る資産」として特別な存在でしたが、なぜ今また注目を集めているのでしょうか。 

その背景には、いくつもの要因が絡み合っています。
ここでは、金価格を押し上げてる代表的な要因について見ていきましょう。 

(1)世界的なインフレ懸念 

最初の大きな要因はインフレ(物価上昇)です。 

近年、各国は景気を下支えするために大規模な金融緩和を行い、通貨の供給量が大きく増えました。
さらにコロナ禍で物流が混乱し、資源価格も上がったことで、世界的に物価の上昇が続いています。
このようなインフレ下では、手元の通貨の価値は少しずつ目減りしてしまうため、「通貨に頼りすぎるのは不安だ」と感じる投資家が増えます。 

そこで注目されるのが、長い歴史の中で価値を保ち続けてきた金です。
「インフレに強い資産」として、金に資金が流れ込みやすくなっているのです。 

(2)金利動向との関係 

次に重要なのが「金利との関係」です。 
金は株式のように配当を生むわけでも、債券のように利息がつくわけでもありません。
そのため、金利が高いときには「わざわざ金を持たなくても利息のつく資産でいいのでは?」と敬遠されがちです。 

ところが、世界的に低金利が続いている今の環境では、事情が変わります。
金利がほとんどつかないなら、無利息の金を持っていても相対的に不利ではなくなるのです。 

さらに、景気後退の懸念が広がり、実質的に「金利がマイナス」のような状況になると、むしろ金の魅力が増していきます。こうした金融環境の変化も、金需要を押し上げています。 

(3)地政学リスクの高まり 

金が「安全資産」と呼ばれる理由のひとつに、地政学的なリスクがあります。 
戦争やテロ、政情不安など、世界情勢が不安定になると、人々は「安全な資産に避難したい」と考えます。
株式や通貨は情勢次第で大きく値動きしますが、金はその影響を比較的受けにくいとされるため、リスク回避の手段として選ばれるのです。 

近年はロシア・ウクライナや中東などの軍事衝突や米中対立の激化など、不確実性の高い出来事が相次いでいます。
こうしたニュースが出るたびに、投資家の心理は揺れ動き、「安全な金を持っておこう」という動きが強まるのです。 

(4)中央銀行の買い増し 

金価格の上昇を支えるもう一つの大きな要因が、各国の中央銀行による金の買い増しです。 
とくに中国やロシアなどは、外貨準備の一部を金で保有する比率を高めています。
背景には「ドル一極依存からの脱却」という思惑があります。
外貨準備をドルに偏らせすぎず、多様化するために金を取り入れているのです。 

しかも中央銀行が一度購入した金は、短期間で手放されることはほとんどありません。
10年、20年、あるいは50年単位で保有され続けるため、その分だけ市場から金が減り、価格を押し上げる効果を持ちます。
こうした大口の長期的な買い支えは、個人投資家にとっても大きな安心材料といえるでしょう。 

(5)投資手段の多様化 

以前は「金に投資する」といえば、延べ棒や金貨を買うといった方法が中心でした。
しかし近年は金融商品の発展により、ずっと手軽に金投資ができるようになっています。
代表的なのがETFです。証券会社の口座から株式と同じように売買でき、保管の手間もかかりません。 

こうした金融商品の普及によって、金市場の流動性が高まりました。
個人投資家が参入しやすくなったことで需要が増え、それが価格の押し上げにつながっています。
「気軽に始められる金投資」という環境が整ったことも、最近の金上昇の背景といえるでしょう。 

(6)中国・インド特有の金需要 

最後に見逃せないのが、中国やインドといった人口大国に根付く金需要です。 
これらの国では古くから、金は「縁起の良いもの」として尊ばれてきました。
結婚やお祝いの場では金の装飾品が贈られる文化があり、人々の日常生活に金が溶け込んでいます。 

さらに、中国とインドはともに人口が10億人を超える大国です。
少しずつの需要であっても、膨大な人口を背景にすればその規模は非常に大きくなります。
そのため、両国の人々の「金への根強い人気」が、世界の金価格を下支えしているのです。 

3 金投資の注意点 

金は「価値を守る資産」として注目されやすく、投資先のひとつとしてとても魅力的です。
ただし、どんな資産にもメリットとデメリットがあるように、金投資にも気をつけておきたいポイントがあります。ここでは代表的な注意点を整理してみましょう。 

(1)配当や利息がない 

株式であれば配当、債券であれば利息といった「持っているだけで得られる収益」がありますが、金にはそれがありません。
つまり、金を持っているだけではお金は増えないということです。
投資のリターンを得るには、価格が上がったときに売却して値上がり益を狙うか、あるいはインフレや有事に備える「資産防衛の手段」として位置づけることになります。 

(2)価格変動リスク 

「金は安全資産」と言われることも多いですが、それはあくまで「相対的に安全」という意味です。
金も相場で取引される資産ですから、価格は日々動きます。
短期的には、為替の変動や投資マネーの流れによって大きく値動きすることも珍しくありません。
安全性を期待して金を買ったのに、「意外と値動きが大きい」と感じる投資家もいます。 

(3)保管コスト 

現物の金を購入する場合には、「保管」という現実的な問題も出てきます。
自宅に置いておくと盗難のリスクがあるため、多くの人は銀行の貸金庫や専門の保管サービスを利用します。そのため、保管サービスの手数料や利用料といったコストが発生します。 

(4)為替の影響 

日本の投資家が円建てで金を買う場合、もうひとつ見逃せないのが「為替の影響」です。
国際的には金はドル建てで取引されているため、ドル円の動きが日本の金価格に直結します。
円安が進めば円建ての金価格は上がりやすくなり、逆に円高になると下がりやすくなります。
金そのものの需給だけでなく、為替相場の変化も価格に影響することを頭に入れておく必要があります。

4 金価格の今後の見通し 

 相場はさまざまな要因で動くため、将来の金価格を「正確に当てる」ことは誰にもできません。 

ただし、いくつかの視点から金の見通しを整理することで、今後の方向性を考えるヒントを得ることは可能です。
ここでは、投資家が注目しておきたいポイントをいくつかご紹介します。 

(1)インフレ傾向が続くかどうか 

まず重要なのは、世界的なインフレが今後も続くかどうかです。 
インフレが長引けば、通貨の価値は相対的に下がりやすくなります。
そのとき投資家が頼るのが「インフレに強い資産」である金です。
これまでの歴史を振り返っても、インフレ局面では金への需要が高まる傾向があります。 

もし各国が金融引き締めでインフレを抑え込むことに成功すれば、金の需要はやや落ち着くかもしれません。逆に、インフレ圧力が残るようであれば、金は長期的に選ばれ続ける資産となるでしょう。 

(2)金利政策の影響 

次に注目すべきは、各国の中央銀行、特に米国FRB(連邦準備制度理事会)の金利政策です。 
金は利息を生まない資産なので、一般的に金利が高いときには敬遠され、低いときには選ばれやすくなります。
たとえば金利が下がれば債券の魅力は薄れ、その分金の魅力が高まります。 

最近の相場でも、FRBの利下げ観測が出ると金価格が上昇し、逆に利上げ姿勢が強まると金が売られる傾向が見られます。
投資家にとっては、金価格を見通すうえで「金利の方向性」が重要なカギとなるのです。 

(3)地政学リスクの継続 

戦争やテロ、政情不安といった「地政学リスク」も金価格を左右する大きな要因です。 

世界情勢が不安定になると、多くの投資家はリスクの高い株式や新興国通貨から資金を引き揚げ、安全とされる金へと資金を移します。 

近年は国際的に不安定な要素が多く、こうしたリスクが高まると金価格は上昇しやすくなります。
投資家心理と金需要が密接につながっている点は押さえておきたいところです。 

(4)中央銀行の買い増し動向 

特に新興国を中心に、各国の中央銀行が外貨準備として金を積極的に買い増している点も見逃せません。 
近年ドル依存を減らし、外貨準備を分散させたいという思惑から、金の保有比率を増やす国が増えています。中央銀行は一度購入した金は長期的に保有されることが多いため、これからも金の買い増しが続く場合には中長期的な金価格の下支え要因となるでしょう。 

(5)投資手段の広がり 

ここで新しく加えておきたいのが、「投資手段の多様化」という視点です。 
以前は金投資といえば、金貨や延べ棒を直接買う方法が中心でしたが、近年は、ETFや投資信託、さらにはネット証券を通じた少額投資など、選択肢が大きく広がっています。 

こうした投資手段の普及によって、個人投資家でも気軽に金投資に参加できるようになりました。
市場の流動性が増したことで、金への需要は一段と高まりやすい環境が整ったといえるでしょう。 

5 まとめ 

金は古代から現代まで、価値を守る資産として世界中で信頼されてきました。
近年の価格上昇の背景には、インフレへの不安や金利の変化、地政学リスク、中央銀行の買い増しといった要因が複雑に絡み合っています。
さらに、ETFなど投資手段の広がりや、中国・インドといった人口大国における文化的な需要も、安定した買い支えとなっています。 

一方で、金は株や債券のように配当や利息を生む資産ではなく、価格変動や保管コストといった注意点もあります。
そのため、資産の一部に「守りの資産」として組み入れるのが現実的な活用法といえるでしょう。 

先行きが読みにくい時代だからこそ、なぜ金が買われるのかを理解しておくことが大切です。
金の特性を踏まえてポートフォリオにうまく組み込めば、資産全体の安定性を高める大きな手がかりとなるはずです。