塩漬け株をずっと抱えていませんか?(投資家心理と投資行動②)

投資を実際に行ってみると、思い通りに行動できない場面が少なくありません。
その背景には、必ず「人間の心理」が存在します。
数字やデータでは割り切れない「心理的なクセ」が、投資行動を大きくゆがめてしまうのです。
だからこそ、投資家が陥りやすい心理的な落とし穴を理解することは、冷静で合理的な判断を下すために欠かせません。
今回の「投資家心理と投資行動」第2弾では、行動経済学のキーワードを手がかりに、「過去の投資行動との向き合い方」について考えていきたいと思います。
目次
1 過去の投資行動に対する心理的バイアス
人は誰しも、自分が過去に選んだ行動を正しかったと信じたいものです。
しかし、その心理には大きな落とし穴が潜んでいます。
この「過去の自分を肯定したい気持ち」に関わる人間心理を示す、行動経済学の用語をご紹介します。
(1)沈没コストの誤謬(サンクコストの誤謬)
沈没コストとは、すでに支払ってしまって回収不能となった費用のことです。
たとえば株式を購入した際の「購入代金」や、それにかかった手数料などは、購入後には戻ってきません。
合理的には、投資判断は「今後得られるリターンとリスク」で決めるべきです。
しかし、人は「すでに払ったコストを無駄にしたくない」という心理に縛られがちです。
これが「沈没コストの誤謬」です。
例えば、1株1000円で買った株が現在700円まで下落しているとします。
このとき、「せっかく1000円払ったのだから、1000円に戻るまでは売れない」と考えてしまうのは典型的な沈没コストの誤謬です。
実際には、株価が今後回復する保証はなく、むしろさらなる下落リスクを抱えるかもしれません。
(2)コンコルド効果
コンコルド効果は、巨額の投資を続けざるを得ない心理状態を指します。
もともとは英国とフランスが共同開発した超音速旅客機「コンコルド」に由来する言葉です。
このプロジェクトは採算が取れないと分かっていながらも、「ここまで投資したのだからやめられない」という心理により、事業が長期化してしまいました。
投資家にも同じ傾向があります。
損失が拡大している株式や事業に対して「ここまで注ぎ込んだのだから引けない」と考え、さらに資金を投じてしまうのです。
結果として損失はより大きくなり、撤退のタイミングを逃すことになります。
(3)サンクコスト効果(サンクコストの呪縛)
サンクコスト効果とは、沈没コストやコンコルド効果の延長線上にある心理現象で、すでに使ってしまったお金や時間に執着してしまう心理的傾向を指します。
投資の世界では特に顕著に表れ、「過去の投資への執着が判断を支配する状態」がこれに当たります。
例えば、株や投資信託を購入した後にパフォーマンスが悪化しても、「ここまで積み立ててきたのだから、やめるのはもったいない」、「ここまで長く持ってきたのだから手放せない」と考えてしまうケースです。
しかし、冷静に見ればその資金を他の有望な投資先に振り替える方が合理的な場合も多いのですが、「これまでの努力」や「投下資金」が足枷となり、合理的な撤退を阻むのです。
(4)保有効果(エンダウメント効果)
保有効果とは、人は自分が所有しているものを実際以上に高く評価してしまう心理です。
たとえば同じコーヒーカップでも、「自分の持ち物」である場合には、他人が買うときよりも高い価格を要求してしまう傾向があります。
投資では、自分が保有する株式や不動産を過大評価し、「売りたくない」「もっと価値があるはずだ」と感じてしまいます。その結果、合理的な売却タイミングを逃すことにつながります。
(5)所有の呪い
所有の呪いは、保有効果と似ていますが、より強い心理的執着を意味します。
「自分が持っているからこそ、手放せない」という状態です。
例えば、親から譲り受けた株や長年応援してきた企業の株式は、客観的に見て期待リターンが低くても「売る気になれない」ことがあります。
このような「所有の呪い」は、投資家を過去に縛りつけます。
(6)ディスポジション効果
ディスポジション効果は、「含み益のある投資はすぐに売ってしまい、含み損のある投資はなかなか売らない」という傾向です。
これは損失を確定させることを嫌う心理と、利益を早めに確定したい欲望が組み合わさった結果です。
しかしこの行動は、損失銘柄を抱え続けて資金効率を下げ、利益銘柄の成長機会を逃すという二重のデメリットをもたらします。
2 心理的バイアスを乗り越えるための実践ポイント
ここでは、投資家が冷静に判断を下すために意識すべきポイントを整理してみましょう。
(1)判断基準を「過去」ではなく「未来」に置く
投資で失敗しやすい典型的なパターンが、「過去にいくら投資したか」にとらわれてしまうことです。
株価が下がったとき、多くの投資家は「ここまで投じた資金を無駄にしたくない」と考えがちです。しかし、過去の支出はすでに取り戻せません。
大切なのは、「今この株を持ち続けるのが合理的かどうか」を基準に判断することです。
未来の利益や成長性を冷静に見極める姿勢を持つことで、感情に左右されない投資行動が可能になります。
(2)追加投資をするかどうかは「未来の価値」で決める
株価が下がった局面では、「平均取得単価を下げたい」との思いから追加投資を検討する投資家も少なくありません。
しかし、ここで重要なのは「追加投資をする価値があるか」を見極める視点です。
過去に費やした資金は戻ってこない以上、未来に期待できるリターンが十分に見込めるかどうかを冷静に判断する必要があります。
つまり、「この銘柄は将来も魅力的か」を基準に投資判断を行うことが欠かせません。
(3)「悪い投資は早めに切る」という教訓
投資で陥りやすい心理の一つに、「損失を認めたくない」という感情があります。
評価損が出ている銘柄を売却するのは辛いものですが、損失を膨らませるよりも早めに手を引く方がはるかに合理的です。
「悪い投資は早めに切る」というシンプルなルールを意識することで、被害を最小限に抑えることができます。
冷静に現状を受け入れ、長期的に資産を守る姿勢が重要です。
(4)「ゼロからポートフォリオを組む」発想を持つ
サンクコストの呪縛を断ち切る方法の一つが、「ポートフォリオをゼロから再構築する」という考え方です。
具体的には、「もし今100万円の現金を持っていたら、この銘柄を買うだろうか」と自問してみるのです。
この問いかけによって、保有している銘柄に執着する気持ちを客観的に見直すことができます。
心理的なバイアスから自由になり、本当に必要な投資先を選び直す助けとなるでしょう。
(5)第三者の視点を取り入れる
自分の判断に自信を持つことは大切ですが、それが「過大評価」になってしまうと危険です。
そこで有効なのが「第三者の視点を持つ」ことです。
アナリストレポートや市場の評価を参考にし、自分の判断を客観的に検証する習慣を取り入れましょう。
もちろん、他人の意見をそのまま鵜呑みにする必要はありませんが、複数の視点を取り入れることで偏りを修正し、冷静な判断がしやすくなります。
(6)感情的価値と冷静さのバランスを意識する
投資には、必ずしも数字に表れない「感情的価値」が存在します。
長年応援してきた企業や思い入れのある銘柄に対しては、合理性だけでは割り切れない気持ちを持つこともあるでしょう。
ただし、資産形成という観点から考えるなら、最終的には冷静さが必要です。
感情を完全に否定するのではなく、「感情を尊重しつつも合理的に判断する」バランス感覚を意識しましょう。
3 まとめ
投資においては、過去の支出や感情にとらわれてしまうことで合理的な判断を失う場面が少なくありません。そこで重要になるのは、未来に基づいた判断基準を持ち、必要に応じて冷静に損切りを行い、客観的な視点でポートフォリオを見直す姿勢です。
さらに、事前に売却ルールを設定することで感情に流されにくくなります。
投資は数字のゲームであると同時に、人間心理との闘いでもあります。
心理的な落とし穴を理解し、冷静さと合理性を保つことが、長期的に資産を守り育てるうえで欠かせないのです。