「72の法則」って何ですか?

資産形成において、よく耳にする言葉のひとつに「複利」があります。
そして、その複利の力を直感的に理解するために便利なツールが「72の法則」です。 

投資をする上で、資産がどのくらいの期間で倍になるかを見積もることができれば、長期的な戦略を立てやすくなります。 

このコラムでは、「72の法則」の仕組みや使い方、実際の活用方法、そして注意点まで、わかりやすく解説していきます。 

1 72の法則とは何か? 

(1)基本的な考え方 

72の法則とは、ある利回りで資産が倍になるまでの年数を、ざっくり計算するための近似式です。
以下のような式で表されます。 

資産が倍になるまでの年数 = 72 ÷ 年利(%) 

たとえば、年利6%で資産運用をしている場合、 

 72 ÷ 6 = 12年 

となり、約12年で元本が倍になると見積もることができます。 

(2)どのようにして導き出されたのか 

この法則の背景には「複利計算」があります。 

複利とは、利子が元本に組み入れられ、次の利子の計算に含まれるという仕組みです。
つまり、利息にも利息がつくため、雪だるま式にお金が増えていくのです。 

正確な計算では対数を使いますが、それはやや難解です。
そのため、72の法則は、その複雑な計算を簡略化し、直感的に理解できるようにした「経験則」なのです。 

2 複利と単利の違い 

ここで、今更かもしれませんが、「単利」と「複利」についておさらいをしましょう。 

(1)単利とは? 

単利とは、元本に対してだけ利息がつく計算方法です。
仮に100万円を年利5%で運用したとすると、毎年の利息は5万円。10年経っても元本は変わらず、利息の合計は50万円で、総額150万円になります。 

(2)複利とは? 

一方、複利では1年目に得た利息にも2年目以降に利息がつきます。
したがって、年を追うごとに加速度的に増加します。同じく100万円を年利5%で10年間複利運用した場合、総額は約162.9万円になります。 

72の法則は、この複利効果に基づくものであり、単利には適用できません。
したがって、使い方を間違えないように注意が必要です。 

3 72の法則の具体例 

実際にいくつかの利回りで計算してみましょう。 

年利(%) 倍になる年数(72÷年利) 
2% 36年 
4% 18年 
6% 12年 
8% 9年 
10% 7.2年 
12% 6年 

このように、利回りが高くなるほど資産が倍になるスピードが速くなることが分かります。 

ただし、利回りが高いほどリスクも高くなるため、単純に「高ければ良い」とは言い切れません。 

4 「72」の代わりに「69」や「70」を使うこともある 

実は、より正確に計算したい場合には、「69」や「70」を使うこともあります。
たとえば「69.3」は自然対数のeを使った正確な式から導き出された値です。ただし、この場合には少しだけ複雑になり、 

 年数 ≒ 69.3 ÷ 利回り(%) 
または 
年数 ≒ 70 ÷ 利回り(%) 

などと表されます。 

それでも「72」が最も使われる理由は、「72」が多くの数字で割り切れるからです(2, 3, 4, 6, 8, 9, 12…)。
簡単に暗算できるので、投資家の間では依然として最もポピュラーな近似式とされています。 

5 実際の資産形成での活用方法 

【活用方法1】長期的な視野での資産倍増計画 

たとえば、30歳の人が年利6%で運用できた場合、12年で資産が倍になります。 

すると、 

 30歳:100万円 ⇒ 42歳:200万円 ⇒ 54歳:400万円 ⇒ 66歳:800万円 

と、退職の頃には約8倍にまで膨らむ可能性があります。 

これが複利の力であり、72の法則で直感的に未来を描けることの強みです。 

【活用方法2】目標達成までに必要な利回りを逆算 

たとえば、資産を10年で倍にしたいと考える場合、 

 72 ÷ 10 = 7.2% 

つまり、年利7.2%の運用が必要であることが分かります。 

目標から逆算して必要な投資戦略を立てることができるのです。 

6 活用する上での注意点 

① 利回りは一定ではない

 現実の投資では、毎年同じ利回りが得られるとは限りません。
株式市場や債券市場、為替、経済状況などの変動要因があるため、あくまで平均利回りでの見積もりとして理解しておく必要があります。 

② インフレの影響を忘れてはいけない 

「資産が倍になる」と聞くと、喜ばしいことに思えますが、同時に物価も上がっていれば実質的な価値はそれほど増えていない可能性もあります。
インフレを考慮した実質リターンを意識することも重要です。 

③ 税金・手数料の影響 

運用によって得られるリターンには、税金(日本では通常20.315%)やファンドの信託報酬などが差し引かれます。
したがって、実際の手取り利回りは72の法則より下回る点も注意しましょう。 

7 まとめ 

72の法則は、複利の力を直感的に理解し、将来の資産形成の見通しを立てる上で非常に便利なツールです。 

たった一つの割り算で、お金が倍になる年数がわかるというシンプルさが魅力であり、長期的な資産形成を目指す人にとっては「投資のものさし」とも言える存在です。 

もちろん、実際の投資では利回りのブレ、リスク、税金、インフレなど様々な要因が絡みます。 

しかし、こうした目安をもとに戦略を立てることで、より現実的な資産計画が立てられるようになるでしょう。 

投資は「今あるお金をどう増やすか」の技術であり、72の法則はその中でも基本中の基本です。
ぜひ、自身の資産運用の中で活用してみてください。