いまさら聞けないiDeCo

老後資金の準備は、現代の日本においてますます重要性を増しています。
少子高齢化が進み、年金制度の将来に不安を抱える人も多い中、「自分で老後資金をつくる」ことが求められています。
その代表的な制度の一つが iDeCo(個人型確定拠出年金) です。
このコラムでは、iDeCoの仕組みからメリット・デメリット、具体的な活用方法までを詳しく解説します。
目次
1 iDeCoとは?
iDeCo(イデコ)は、「individual-type Defined Contribution pension plan」の略称で、「個人型確定拠出年金」と呼ばれる私的年金制度です。
公的年金(国民年金・厚生年金)に上乗せして、自分自身で老後資金を積み立てていく仕組みです。
加入者が毎月一定額を積み立て、その資金を投資信託や定期預金などで運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ることができます。
2 iDeCoの基本的な仕組み
iDeCoには以下のような特徴的な仕組みがあります。
(1)毎月の掛金を自分で決めて積み立てる
iDeCo では、加入者が毎月掛金(積立金額)を決めて拠出します。
掛金は最低5,000円からスタートでき、1,000円単位で自由に設定可能です。
ただし、限度額は職業や勤務先の年金制度の加入状況によって異なります。これは、公的年金制度の二階建て・三階建て構造と整合性を保つためです。
加入資格 | 拠出限度額(月額) |
自営業者(第1号被保険者) | 68,000円 |
会社員(企業年金なし) | 23,000円 |
会社員(企業型DC加入者など) | 20,000円 |
公務員 | 20,000円 |
専業主婦(夫) | 23,000円 |
また、iDeCoは柔軟に掛金設定することができます。
・年に1回、掛金の金額変更が可能
・拠出の「停止」も可能(ただし、その間も口座管理手数料は発生)
・拠出方法には「毎月払い」のほか、「半年払い」「年払い」が選択可能(金融機関による)
(2)自分で決めた運用商品で運用する
iDeCoでは、拠出した掛金は、加入者が自分で選んだ運用商品で運用されます。
その運用成果(利益・損失)は、将来受け取る年金額に直接影響を与えます。
iDeCoの運用商品は、大きく分けると「元本確保商品」と「投資信託」の2つに分類されます。
①元本確保商品
元本に所定の利息が上乗せされます。
ア 定期預金
・元本が保証されており、所定の利息が上乗せされる
・リスクを避けたい人に最適
・金利は非常に低く、インフレに弱い
イ 保険商品(年金保険など)
・一定の元本保証があるが、リターンは限定的
・解約や移換に制約がある商品もある
②投資信託(株式型・債券型・バランス型)
・リターンは期待できるが、元本割れリスクあり
・主に海外株式型、国内株式型、海外債券型、国内債券型に分類
・複数の資産クラスを組み合わせたバランス型や不動産を投資対象とするREITもある
・あらかじめ運用目標とする年を決めてあるターゲット・イヤー・ファンドもある
また、 iDeCoでは、複数の商品を組み合わせて分散投資が可能です(株式50%、債券30%、定期預金20%など)。
自分の年齢、リスク許容度、投資スタイル(攻め/守り)に応じて運用配分を設計しましょう。
(3)原則60歳まで引き出せない
iDeCo は「老後資金を作るための制度」であるため、原則として60歳まで資金を引き出すことができません。
また、途中解約は原則不可です(障害など特別な事情を除く)。
結婚、転職、離職などのライフイベントがあっても資金は拘束されます。
この仕組みは、裏を返せば「計画的に老後の資産形成に集中できる環境が整っている」とも言えます。
(4)自分の好きな方法でお金を受け取ることができる
60歳以降、iDeCoの積立資産を受け取る際には、「一時金」「年金」「併用」の3つの方法から選べます。
これもまた、自分のライフプランに応じて柔軟に設計できます。
①一時金方式:一括で受け取る
②年金方式:分割で数年にわたって受け取る
③併用方式:一部を一時金で受け取り、残りを年金で受け取る
3 iDeCoのメリット
iDeCoには、他の投資や貯蓄にはない特別な税制優遇があります。これが最大の魅力です。
(1)掛金が全額所得控除される
iDeCo最大のメリットは、掛金が全額所得控除の対象になることです。
つまり、iDeCoで積み立てた金額の分だけ、課税対象となる所得が減るため、所得税や住民税が軽減されます。
たとえば、
年収500万円の会社員(30歳)が月額20,000円をiDeCoで拠出すると、年間240,000円の所得控除となり、所得税(税率10%)と住民税(税率10%)の節税効果は48,000円になります。
この節税効果は、毎年続くため、10年積み立てれば48万円、20年で96万円の税金を減らせる計算になります。これは実質的な「リターン」ともいえるでしょう。
また、所得税は累進課税制度なので、所得が高い人ほど税率も上がります。
したがって、高所得者ほどiDeCoの恩恵は大きくなるのです。
(2)運用益が非課税
iDeCoでは、積立金を投資信託などで運用しますが、この運用によって得られた利益(運用益)はすべて非課税となります。
これは、他の金融商品と比べても非常に大きなメリットです。
<通常の課税口座の場合>
通常、投資信託や株式などの運用益には20.315%の税金(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)がかかります。
たとえば、投資で10万円の利益が出た場合、約2万円が税金として差し引かれ、手元には約8万円しか残りません。
<iDeCoの場合>
iDeCo口座内で得た運用益は、税金が一切かかりません。
たとえば、10万円の利益がそのまま10万円丸ごと積み立てられるのです。
この非課税メリットは、「長期運用で複利効果が最大限活かされる」という点でも大きな意味を持ちます。
たとえば、以下のようなシナリオで考えてみましょう。
・年間24万円を30年間運用(合計720万円)
・平均利回り5%で運用
最終的な運用益 | 総資産額 | |
課税口座 | 約1,166,600円 | 約837万円 |
iDeCo(非課税) | 約1,395,200円 | 約860万円 |
非課税で運用することで、30年後の資産が23万円以上多くなります。
運用期間がさらに長期となれば、その差はさらに拡大し、将来の受取額に大きな影響を与えます。
(3)受け取り時にも税制優遇
60歳以降に受け取る際にも、退職所得控除または公的年金等控除が適用されます。
受け取り方や年数に応じて、実質的にほとんど税金を払わずに受け取ることが可能です。
iDeCoで積み立てた資産は、60歳以降に「一時金」「年金」「併用」のいずれかの方法で受け取ります。
この際にも、税制面での大きな優遇措置が用意されています。
①一時金として受け取る場合
一括で資産を受け取る場合は、「退職所得控除」が適用されます。
これは、勤続年数や加入年数に応じて、一定額まで非課税で受け取れる制度です。
<退職所得控除の計算式>
20年以下:40万円 × 加入年数
20年超:800万円 + 70万円 ×(加入年数 - 20年)
たとえば、iDeCoに25年間加入した人の場合、
控除額 = 800万円 + 70万円 × 5年 = 1,150万円
つまり、1,150万円までは非課税で一時金を受け取れるということです。
多くの人にとって、これだけの非課税枠があれば「ほぼ全額非課税」で受け取れる可能性が高いです。
②年金として受け取る場合
年金形式で受け取る場合は、「公的年金等控除」が適用されます。
これにより、一定金額までは年金受取額も非課税になります。
公的年金と合わせた金額にこの控除が適用されるため、調整次第で税負担を抑えることが可能です。
③併用方式なら両方の控除が使える
一部を一時金で受け取り、残りを年金として受け取る「併用方式」も選択できます。
適切に配分すれば、「退職所得控除」と「公的年金等控除」の両方を活用できるため、より効率的に資産を受け取ることができます。
4 iDeCoのデメリット・注意点
メリットの多いiDeCoですが、注意すべき点もあります。
(1)原則60歳まで引き出せない
途中で資金が必要になっても引き出せません。これがiDeCo最大の制約であり、流動性が極めて低い点に注意が必要です。
(2)運用リスクがある
投資信託で運用する場合、元本割れのリスクがあります。
リスク許容度に応じた商品選びと、長期視点の運用が求められます。
(3)手数料がかかる
iDeCoには以下のような手数料が発生します。
・加入時手数料:2,829円(国民年金基金連合会)
・毎月の運営管理手数料:数百円〜(金融機関によって異なる)
・手数料が運用成果に影響を与えるため、金融機関の選定も重要です。
5 NISAとの違い
運用益が非課税という点で、iDeCoと似た制度に「NISA」があります。
iDeCoは老後資金の確保が目的としている一方、NISAは中長期的な資産形成が目的という違いがあります。
iDeCo | NISA | |
税制優遇 | 掛金控除・非課税 | 運用益のみ非課税 |
引き出し | 60歳まで不可 | いつでも可能 |
投資上限 (年額) | 240,000円~816,000円 | 3,600,000円 (つみたて投資枠・成長投資枠合計) |
対象商品 | 投信等(金融機関による) | 国が定めた低コスト投信や株式等 |
6 iDeCoの手続きの流れ
以下の手順で iDeCoを始めることができます。
【ステップ1】金融機関を選ぶ
iDeCoに加入するには、金融機関(証券会社・銀行など)を選びます。
<選定ポイント>
・手数料が安い
・魅力的な運用商品のラインナップが豊富
・サポート体制などのサービスが整っている
SBI証券、楽天証券、マネックス証券などは人気があります。
【ステップ2】申し込み手続き
金融機関のWebサイトで資料請求を行い、必要書類(申込書、本人確認書類、事業主の証明など)を金融機関に提出します。
【ステップ3】拠出開始
手続き完了(申し込み手続きから2か月程度)後、毎月の掛金が指定口座から引き落とされ、運用がスタートします。資産配分や商品変更は、途中でも可能です。
7 iDeCoを活用した資産形成のポイント
(1)長期・積立・分散の原則を活かす
iDeCoは原則として60歳まで引き出しができない制度であるため、自然と「長期投資」の形になります。
この特性を活かし、「長期・積立・分散」という投資の基本原則を徹底することが成功の鍵です。
長期的に積み立てることで、相場の一時的な変動リスクを抑えながら、複利効果を享受できます。
(2)自分に合った資産配分を設計する
iDeCoでは複数の運用商品(主に投資信託)から自分で投資先を選ぶ必要があります。
ここで重要になるのが、資産配分=「アセットアロケーション」の設計です。
これは、リスクとリターンのバランスを考慮して、どの資産クラスにどれくらいの比率で投資するかを決めることを意味します。
たとえば、若年層で時間的余裕がある場合は、成長性の高い株式比率を高めに設定することも検討できます。一方、50代以降の人は、リスクを抑えるために債券や元本確保型商品への比重を増やす選択肢もあります。
自身の年齢、投資経験、リスク許容度をふまえたアセットアロケーションを行うことが、安定した資産形成につながります。
(3)定期的な見直しとリバランスの実施
一度資産配分を決めたらそれで終わり、というわけではありません。
運用を続けていくうちに、株式市場の変動などによって、当初の資産配分が崩れていきます。
たとえば、株価が大きく上昇した場合には、ポートフォリオの中で株式の比率が過度に高まってしまうことがあります。
こうしたときに必要なのが「リバランス」です。
これは、資産配分を定期的に見直し、当初のバランスに戻す作業です。
リバランスによってリスクの偏りを是正し、安定した運用が継続できます。
iDeCoの運営管理機関の多くは、サイト上でリバランス機能を提供しているため、半年~1年に一度は資産状況をチェックする習慣を持つと良いでしょう。
(4)金融機関の比較検討
iDeCo を始める際には、金融機関(運営管理機関)を選ぶ必要がありますが、その際に注目すべきポイントの一つが「手数料」です。
iDeCoでは、加入時・運用期間中・給付時に各種手数料が発生しますが、特に運用期間中に毎月かかる手数料の差は、長期的に見ると運用成果に大きく影響を与えます。
一部のネット証券などでは運営管理手数料が無料となっており、低コストの投資信託も豊富に取り揃えています。
また、一部の金融機関では、商品のラインナップが少なく、商品選定の自由度も低い場合があります。
制度上、金融機関の変更は手続きが煩雑であるため、最初にしっかり比較検討することが大切です。
(5)退職時期やライフプランに合わせた出口戦略の検討
iDeCoは受取時にも税制優遇がある一方で、受取方法やタイミングによっては、他の退職金や年金と合算され課税対象になる可能性もあります。
そのため、事前にライフプラン全体を見据えた「出口戦略」の設計が重要です。
たとえば、退職金を受け取る時期とiDeCoの一時金受取が重なると、退職所得控除を十分に活用できない可能性があります。
その場合は、iDeCoを数年後に受け取るように遅らせたり、年金方式で少しずつ受け取ったりする方法を検討できます。
税金の負担を最小限に抑えるためには、計画的な受取方法を考えておくことが重要です。
8 まとめ
iDeCoは、高い節税効果と長期運用に適した制度で、老後資金を自ら積み立てて備える強力な手段です。
ただし、60歳まで引き出せない資金拘束や運用リスクがあるため、ライフプランと照らし合わせた慎重な判断が求められます。
掛金や運用商品、受取方法まで自己選択が求められるため、制度を正しく理解し、自分に合った形で活用することが重要です。
また、NISAと併用することで、柔軟性と非課税メリットを両立した資産形成も可能になります。
早く始めるほど効果は大きく、将来の安心のために、今こそ一歩を踏み出す時です。
iDeCoは「自己責任・自己設計」の制度であり、未来をつくるのは今のあなた自身です。