資産配分ってどうしたらいいの?
これまでに、長期投資、分散投資、そしてリスク許容度について学んできました。
今回は、具体的に「どのように資産を配分するか」について考えていきます。
いわゆる、「アセットアロケーション」と「ポートフォリオ」の話です。
アセットアロケーションとポートフォリオの違い
今までの復習になりますが、長期投資は、「投資資産の値動きは正確にわからないため、資産を分散してリスクを抑えながら、長期的に運用して、複利効果で資産全体を増やすことを目指しましょう。」ということでした。
その長期投資における資産配分の具体的な形が、「アセットアロケーション」と「ポートフォリオ」になります。
ところが、「アセットアロケーション」と「ポートフォリオ」とが混同されて使われていることがあります。
その内容・目的が異なりますので、その意義から明確にしていきます。
・ アセットアロケーションとは?
アセットアロケーションは、「資産配分」のことです。
例えば、日本株に20%、日本の債券に20%、外国株に20%、外国債券に20%、不動産に10%、ゴールドに10%というように、どの資産にどれだけ投資するかを決めることです。
・ ポートフォリオとは?
ポートフォリオは、「具体的な金融商品の組み合わせ」を指します。
例えば、アセットアロケーションで「日本株に20%」と決めた場合、その中で、どの日本株に投資するかを決めます。
具体的には、eMAXIS Slim国内株式(日経平均)に10%、ひふみプラスに10%といったように、個別の金融商品を選びます。
・ アセットアロケーションとポートフォリオの関係
まずは「アセットアロケーション」で資産配分の全体像を決めます。
これは、投資の土台となる重要なステップです。
その次に「ポートフォリオ」で、アセットアロケーションに基づいて、具体的にどの金融商品にいくら投資するかを決めていきます。
アセットアロケーションが全体の方針で、その後にポートフォリオを組み立てるという順番です。
これから、どのように資産を分けていくか、つまり「資産配分」について考えていきましょう。
実は、日本には、投資初心者にも理解しやすい効果的な資産配分の例があります。
それは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用モデルです。
GPIFとは?
GPIFは、私たちの大切な年金積立金を運用し、その利益を国に納めることで、年金制度を支えている組織です。
いわば、年金のお金を運用しているプロのファンドマネージャーです。
その運用しているお金の総額は、なんと約246兆円(2023年度末時点)にもなります。
GPIFの投資方針は、長期的に投資を分散させることで安定した利益を目指す、というものです。
1 基本の資産配分
GPIFは2020年4月から、一貫して資産を以下の割合で配分しています。
以前に比べると、株式の割合が増えています。
・ 債券:50%(国内債券 25%、外国債券 25%)
・ 株式:50%(国内株式 25%、外国株式 25%)
この配分を大きく変えないように、定期的に資産を売買して調整しています(これをリバランスと言います)。
2 期待リターンとリスク
GPIFは、資産ごとに1年間の期待リターン(どれくらいの利益が出そうか)とリスク(値動きの幅)を公表しています。
以下がその内容です(2024年9月現在)。
なお、「年間想定リターン幅」とは、統計的に68%の確率でその範囲に収まることを意味します。
(1)国内債券
・ 期待リターン:1.5%
・ リスク(標準偏差):4.1%
・ 年間想定リターン幅:-2.6%~5.6%
(2)外国債券
・ 期待リターン:3.8%
・ リスク:11.5%
・ 年間想定リターン幅:-7.7%~15.3%
(3)国内株式
・ 期待リターン:5.5%
・ リスク:24.9%
・ 年間想定リターン幅:-19.4%~30.4%
(4)外国株式
・ 期待リターン:7.8%
・ リスク:25.7%
・ 年間想定リターン幅:-17.9%~33.5%
(5)上記(1)から(4)の資産をそれぞれ25%ずつ保有した場合
・ 期待リターン:4.7%
・ リスク:16.6%
このように、リターン(利益)が高い資産ほど、値動きの幅(リスク)も大きくなります。
例えば、外国株式の場合、リターンが最大で33.5%の利益になる可能性がある一方で、-17.9%の損失が出る可能性もあります。
株式を中心に投資すると、価格が大きく上昇することもあれば、大きく下がることもあります。
3 GPIFの運用実績(2023年度)
(1) 2023年度の成果
・ 収益率:+22.67%(年率)
・ 収益額:+45兆4153億円(年間)
(内訳)インカムゲイン(利息や配当による利益)+4兆1374億円
キャピタルゲイン(資産の値上がりによる利益)+41兆2779億円
2023年度は、日本株と外国株のどちらも好調だったため、かなりの収益ることができました。
(2) 2020年度~2023年度の収益
収益額:+96兆2599億円
この4年間は、現在の資産配分(株式と債券を半々で持つ形)で運用してきた期間です。
多額の収益を得られた理由は以下の通りです。
・ コロナウイルスの影響で大きく下落した株式が、その後大きく反発したこと
・ 円安
・ 外国債券の金利上昇
以前は債券中心の運用をしていましたが、株式の比重を増やしたことで、特にこの4年間では大きな成果をあげました。
4 GPIFの運用から学べること
① 債券と株式を同じ割合で持つことに加えて、国内外の資産を同じ割合で持つことで、リスクを抑えながら利益を得ることができていること
② 一貫した資産配分で長期的に運用することで、安定して資産を増やすことができていること
③ 収益を上げるためには、債券のインカムゲインだけでは不十分であり、ある程度リスクを上げて株式は保有して、キャピタルゲインを確保していること
④ コロナ後の株価上昇により大きな利益を生みだしたこと
投資初心者でもできる資産配分の見つけ方
GPIFの運用モデルはとてもシンプルで、リスクをうまく管理しながら安定した収益を目指しています。
これは、投資のプロでない人にも十分に運用でき、GPIFのような投資のプロにも引けを取らない成果を上げることが可能です。
なぜなら、資産配分を一定に保つことに集中することで、日々の値動きに一喜一憂せず、冷静に資産運用ができるからです。
1 リスクとリターンの管理
GPIFは、過去のデータをもとに4つの資産クラス(国内債券、外国債券、国内株式、外国株式)ごとに期待リターン(得られる可能性のある利益)とリスク(値動きの幅)を計算しています。
各資産を25%ずつ持つことで、全体の期待リターンは4.7%、リスクは16.6%としています。
まずは、GPIFが出している期待リターンとリスクを参考にし、自分に合った資産配分を考えてみましょう。
2 資産配分のパターン
次に、4つの資産配分パターンを紹介します。
リスクとリターンの数値は、資産の相関を無視して計算していますが、おおよそ正確な範囲になっていると思います。
期待リターンが高いほうがいいのですが、どうしてもリスクも高くなります。
(1)債券を多くするパターン
・ 資産配分:国内債券と外国債券:35%ずつ、国内株式と外国株式:15%ずつ
・ 期待リターン:3.9%
・ リスク:13.1%
(2)株式を多くするパターン
・ 資産配分:国内株式と外国株式:35%ずつ、国内債券と外国債券:15%ずつ
・ 期待リターン:5.5%
・ リスク:20.1%
(3)国内資産を多くするパターン
・ 資産配分:国内債券と国内株式:35%ずつ、外国債券と外国株式:15%ずつ
・ 期待リターン:4.2%
・ リスク:15.7%
(4)外国資産を多くするパターン
・ 資産配分:外国債券と外国株式:35%ずつ、国内債券と国内株式:15%ずつ
・ 期待リターン:5.1%
・ リスク:17.4%
3 自分に合った資産配分の選び方
資産クラスの割合を10%変えるだけで、期待リターンは3.9%から5.5%、リスクは13.1%から20.1%の間で変わります。
もし、年間リターンが4%程度で十分と感じるなら、債券中心の(1)や国内資産中心の(3)が適しているでしょう。
一方、リターンを5%以上期待したいなら、株式中心の(2)や外国資産中心の(4)が候補になります。
ただし、これらはリターンの幅が大きく、値動きが激しい点に注意が必要です。
例えば、(2)株式を多くするパターンでは、1年間で25%の利益を得られる可能性がありますが、同時に15%の損失を被るリスクもあります。
例えば、1000万円を投資していたら、150万円が減って850万円になる可能性もあります。
このとき、冷静でいられるかどうかを想像してみてください。
もしこのリスクが大きいと感じたら、(4)の外国資産中心やGPIFモデル、あるいは(3)の国内資産中心など、リスクとリターンを抑えたパターンを選んでみてください。
「これなら大丈夫」と思えるラインがあなたのリスク許容度になります。
ここまで、 GPIFモデルをベースに皆さんに合った資産配分について考えてみました。
少し理論っぽいところが多く、わかりづらかったかもしれませんが、ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次のコラムでは、この資産配分をもとにどんな金融商品を保有すればよいかなどについて、考えてみたいと思います。