景気サイクルと資産配分との関係を教えて!

投資をしていると、「今は株を増やすべきか、それとも債券を多めにすべきか」と悩む場面が少なからずあります。
その背景には「景気サイクル」と呼ばれる経済の波が存在します。 

経済は好況と不況を繰り返す性質を持ち、その局面によって適した資産の種類や投資戦略が変わってきます。
資産配分(アセットアロケーション)を考える際、この景気サイクルを意識することはとても重要です。 

このコラムでは、景気サイクルの基本から各局面でどのような資産が有利になりやすいのか、さらに実際に個人投資家がどのように配分を工夫すればよいのかを、わかりやすく解説していきます。 

1 景気サイクルとは 

経済は一直線に成長を続けるわけではなく、波のように好況と不況を繰り返しながら進んでいきます。
この繰り返しを「景気サイクル(景気循環)」と呼び、古くから経済学や投資の分野で注目されてきました。

景気サイクルは一般的に 「回復期」、「拡大期(好況期)」、「後退期」、「不況期」 の4つの局面に分けられます。 

このサイクルは数年から10年以上にわたって繰り返される傾向があります。
もちろん、現実の景気は複雑で予想通りに進むわけではありませんが、大まかな流れを知っておくだけでも投資判断に役立ちます。 

(1)回復期 

「回復期」は、景気が底を打ったあと、徐々に経済活動が持ち直していく局面です。 

不況期に企業が抑えていた設備投資や雇用が少しずつ回復し、消費者のマインドも改善していきます。
株価や不動産価格などは、不況期に大きく下落したあとで割安になっているため、投資家にとっては仕込みの好機となることが多い時期です。 

【特徴】 

・失業率は依然として高いが、減少傾向が見え始める 

・中央銀行は景気刺激のため低金利政策を継続している 

・消費者はまだ慎重だが、徐々に支出が増えていく 

・株式市場では、景気に敏感な業種(自動車、鉄鋼、機械など)が先行して上昇する 

(2)拡大期(好況期) 

回復が進むと、経済は本格的な成長軌道に乗ります。
これが「拡大期(好況期)」です。 

企業の利益は大幅に増え、雇用は改善、個人消費も旺盛になります。
金融機関の貸し出しが活発化し、住宅や設備投資も増加するため、経済全体が力強い成長を遂げる時期です。 

【特徴】 

・GDP成長率は高水準を維持 

・失業率は低下し、人手不足が顕著になる 

・物価は上昇傾向を示し、インフレ圧力が強まる 

・株価は上昇し続けるが、同時に割高感が意識され始める 

・債券市場は、インフレと金利上昇によって価格が下がりやすい 

(3)後退期 

拡大期がピークに達すると、やがて過熱した経済は調整に入ります。この段階が「後退期」です。 

需要が頭打ちになり、企業の在庫が増加、利益も伸び悩みます。
中央銀行がインフレを抑えるために利上げを行うことが多く、それがさらに景気のブレーキとなります。 

【特徴】 

・GDP成長率が鈍化し、景気指標がピークアウトする(頭打ち) 

・企業の設備投資や個人消費が減速する 

・金融引き締めによって資金調達コストが上昇する 

・株式市場は天井を打ち、下落トレンドに転じる 

・投資家はリスク資産から安全資産(債券・現金)へシフトし始める 

(4)不況期 

後退期がさらに進行すると、「不況期」に入ります。 

不況期は景気サイクルのなかで最も厳しい局面であり、企業収益の悪化、失業率の上昇、消費の落ち込みが顕著になります。
金融機関の貸し渋りが起きることも多く、経済活動全体が縮小します。

【特徴】 

・GDPがマイナス成長に陥る 

・失業率が大幅に上昇し、個人消費は低迷 

・政府・中央銀行は景気刺激策を打ち出すが、効果が出るまでに時間がかかる 

・株価は低迷し続けるが、ディフェンシブ株や生活必需品株が相対的に強い 

・債券は安全資産として買われやすく、価格が上昇する 

2 景気変動と主要な資産クラスとの関係 

景気サイクルの4つの局面(回復期・拡大期・後退期・不況期)は、株式、債券、不動産、現金など主要な資産の値動きに大きな影響を与えます。
そのため、投資家は局面ごとの特徴を理解し、自分のポートフォリオを適切に調整することが求められます。 

(1)回復期 ― 株式が輝き始める時期 

不況の底を打った直後の回復期では、株式市場がいち早く動き出します。
景気はまだ弱々しいですが、投資家は「最悪期は過ぎた」という期待感からリスク資産に資金を移し始めます。 

① 資産クラスの特徴 

・株式:低迷していた企業業績が改善に向かい、株価が上昇しやすい。特に景気敏感株(自動車、機械、素材など)が先行して上昇。 

・債券:低金利が続くため、価格は安定。ただし、株式に比べて相対的なリターンは低下。 

・不動産:徐々に需要が戻り、地価や不動産価格が回復してくる。 

・コモディティ:需要増加の兆しが見え、価格が上昇に転じることがある。 

・現金:投資家はリスク資産へ資金を移行するため、現金比率は下げる方向。 

② 資産配分 

この局面では「株式比率を高める」ことが有効です。
特に、景気敏感株や小型株などは景気の立ち上がりで大きく上昇する傾向があります。 

(目安) 

・株式:50% ・債券:25% ・不動産:10% ・コモディティ:10% ・現金:5% 

(2)拡大期 ― リスク資産が最も報われる時期 

景気が本格的に成長する拡大期は、株式や不動産が強いリターンを生みます。
企業業績は過去最高を更新し、個人消費も旺盛になります。投資家心理は楽観的になり、リスク資産への資金流入が加速します。 

① 資産クラスの特徴 

・株式:企業利益が最大化し、株価は力強い上昇を見せる。グロース株や景気に敏感なセクターが引き続き好調。ただし、バリュエーション(株価の割高感)に注意が必要。 

・債券:インフレ懸念や金利上昇で債券価格は下落しやすい。 

・不動産:住宅需要やオフィス需要が旺盛になり、価格上昇。REIT(不動産投資信託)も好調。 

・コモディティ:経済活動が活発になるため、エネルギー資源や金属価格が高騰する傾向。 

・現金:使い道が少なく、持ちすぎると機会損失になりやすい。 

② 資産配分 

この時期は「リスク資産が中心」ですが、バブルの兆候が出始めたら注意が必要です。
利益確定を少しずつ行い、債券や現金の比率を増やしておくのも賢明です。 

(目安) 

・株式:55% ・債券:15% ・不動産:15% ・コモディティ:10% ・現金:5% 

(3)後退期 ― 守りを意識する時期 

景気がピークを過ぎると、徐々に企業の利益が伸び悩み、株価も頭打ちになります。
金利が高止まりして資金調達コストが上昇するため、投資家はリスク資産を手放し、安全資産へ移動します。 

① 資産クラスの特徴 

・株式:需要減退により企業業績が悪化し、株価は調整局面に入る。特に、景気敏感株の下落が大きい。 

・債券:利上げが一巡すると、債券価格は上昇。安全資産としての魅力が高まる。 

・不動産:需要が弱まり、取引が減少。価格は横ばいまたは下落。 

・コモディティ:需要減少により価格が下落傾向に。 

・現金:投資家の待機資金として比率が高まる。 

② 資産配分 

この時期は「守り」を意識することが大切です。
株式を減らし、債券や現金を増やすことでリスクを抑えられます。
また、株式の中でもディフェンシブ銘柄(医薬品、生活必需品、公共事業など)を組み入れるのも有効です。 

(目安) 

・株式:30% ・債券:35% ・不動産:10% ・コモディティ:15% ・現金:10% 

(4)不況期 ― 安全資産が輝く時期 

景気が深刻な不況に陥ると、株価は低迷し、失業率は上昇。投資家はリスク回避を最優先し、安全資産に資金を集中させます。
この局面では「大きく増やす」より「減らさない」ことが重要です。 

① 資産クラスの特徴 

・株式:全体的に株価は低迷するが、ディフェンシブ株が比較的底堅い。 

・債券:安全資産として需要が高まり、価格が上昇傾向。 

・不動産:需要の低迷が続き、価格は軟調。 

・コモディティ:「金」は安全資産として買われやすい。 

・現金:手元資金として価値が高まる。 

② 資産配分

 不況期は投資家にとって厳しい局面ですが、同時に次の回復期に向けて準備をする大切な時期でもあります。
十分な現金を確保し、割安になった株や不動産に少しずつ投資していくのも有効な戦略です。 

(目安) 

・株式:20% ・債券:40% ・不動産:10% ・コモディティ:20% ・現金:10% 

3 個人投資家が実践するための工夫

 景気変動を踏まえて資産配分を考える際には、次のような工夫が役立ちます。 

(1)経済指標を活用する

 GDP成長率、失業率、物価上昇率、企業の景況感調査などをチェックすることで、景気の方向感をつかみやすくなります。 

(2)分散投資を徹底する 

景気の先行きを完璧に予想することは不可能です。
そのため株式・債券・不動産・コモディティに分散しておくことで、どの局面でも極端な損失を避けられます。 

(3)長期投資の視点を持つ

 短期的な景気変動に振り回されすぎず、長期のリターンを重視することが重要です。
たとえば、積立投資を続けることで、不況期に安値で仕込むチャンスを自然と得られる可能性があります。 

(4)ライフステージに合わせる 

若い世代は株式比率を高めてもよいですが、退職が近づくにつれて債券や現金を増やすなど、自分の人生設計と合わせて調整することも大切です。 

4 まとめ

 景気サイクルは投資家にとって避けて通れない現象です。
景気の局面ごとに有利な資産は変わりますが、完璧にタイミングを測るのは非常に難しいのが現実です。 

したがって、個人投資家にとって最も重要なのは「大まかな景気の流れを意識しつつ、長期的に安定する資産配分を心がけること」です。
株式と債券のバランスを軸に、不動産やコモディティを組み合わせ、分散と長期投資を徹底する。
これが景気変動に強いポートフォリオを築く基本となります。 

将来の景気の波を完全に読み切ることは不可能ですが、正しく理解し、柔軟に対応する姿勢を持てば、資産運用はぐっと安定感を増すでしょう。