個人事業者の老後資金ってどうしたらいいですか?(小規模企業共済)

個人事業を営んでいると、会社員のように厚生年金や退職金制度に守られていないことに気づかれる方も多いのではないでしょうか。
独立して自由な働き方ができる一方で、「老後の生活資金はどうなるのか」、「もし事業を辞めることになったら、どんな備えがあるのか」といった不安が頭をよぎる瞬間もあると思います。
そのような将来に対する不安を少しでも和らげるために、国が用意している制度のひとつが 「小規模企業共済」 です。
このコラムでは、小規模企業共済の仕組みからメリット、注意すべき点まで、個人事業者の方にとって役立つ情報をわかりやすく解説していきます。
目次
1 小規模企業共済とは
小規模企業共済は、「中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)」が運営している公的な共済制度です。
簡単に言えば「小規模事業者のための退職金制度」であり、個人事業者だけでなく、小さな会社の役員や共同経営者も利用できます。
(1)対象者
加入できるのは、以下のような人です。
・常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業では5人以下)の個人事業主
・上記に該当する法人の役員
・一部の共同経営者や家族従業員
つまり、規模の小さい事業を営んでいる方であれば、幅広く利用できる制度です。
(2)掛金の仕組み
掛金には、以下のような特徴があります。
・毎月1,000円から70,000円まで、500円単位で自由に設定可能
・経営状況に応じて途中で増額・減額が可能
・支払った掛金は、全額が所得控除の対象になるため、節税効果あり
(3)共済金の受け取り方
共済金は、事業をやめたり、役員を退任したりした際に受け取れます。受け取り方法は以下の3つから選べます。
・一括受け取り(退職金のようにまとめて)
・分割受け取り(年金のように)
・一括と分割の併用
このように、小規模企業共済は「積み立てながら節税できる退職金制度」として、個人事業者の将来に備えて活用できる仕組みになっています。
2 小規模企業共済の魅力
小規模企業共済は、単なる積立制度にとどまらず、事業者にとってさまざまなメリットを持つ制度です。ここでは、その魅力をいくつかの観点から整理してみましょう。
(1)掛金が全額所得控除になる
まず大きな魅力は、掛金がそのまま全額所得控除になる点です。
たとえば、毎月5万円を積み立てると、年間で60万円がそのまま所得から差し引かれます。
課税所得が減ることで、所得税や住民税の負担が軽くなり、結果的に手元に残るお金が増える効果があります。
普通の預金や投資商品は、積み立てながら税金の軽減効果を得ることはできません。
そのため「節税」と「将来の備え」を同時に実現できる小規模企業共済は、事業主にとって非常に効率のよい制度といえます。
(2)退職金のように受け取れる
共済金は、事業をやめたり、会社を退任したりするタイミングで受け取れます。
受け取り方法は「一括」「分割」「一括と分割の併用」と柔軟に選択できます。
さらに、受け取るときの税制優遇も大きなポイントです。
一括で受け取れば「退職所得控除」、年金のように分割で受け取れば「公的年金等控除」が使えます。
どちらにしても、税金の負担を抑えながら資金を受け取れるのはありがたい仕組みです。
(3)柔軟な掛金設定
小規模企業共済は、毎月の掛金を 1,000円~70,000円の範囲で自由に設定 できます。
しかも、経営状況に応じて後から増額・減額が可能です。
「今年は売上が好調だから多めに積み立てよう」、「少し厳しいから一時的に減額しよう」といった調整ができるので、事業の波に合わせて無理なく続けられるのは安心感につながります。
(4)万が一のときに遺族へ支給される
加入者が亡くなった場合には、遺族が共済金を受け取れる仕組みがあります。
これは生命保険に似た役割を果たしており、残された家族の生活を守ることにもつながります。
「自分に何かあったとき家族は大丈夫だろうか」と不安を感じる方にとっては、心強い制度といえるでしょう。
(5)事業資金の借入ができる
小規模企業共済のもうひとつの特徴として、積み立てた掛金をもとに 低金利で事業資金の借入ができる 点があります。
事業をしていると、設備投資や運転資金など急に資金が必要になる場面があります。
銀行融資を受けるのは審査や手続きが大変ですが、小規模企業共済では掛金の範囲内でスムーズに貸付を受けられる制度が整っています。
「せっかく積み立てているのに解約しないと資金が使えない」という不便さを解消してくれるのは、この制度の大きな安心材料です。
事業資金のセーフティネットとしても活用できる点は見逃せません。
(6)受給権の差し押さえが禁止されている
小規模企業共済の共済金は、原則として 差し押さえの対象になりません。
つまり、万が一事業で借金を抱えたり、予期せぬトラブルで債務が発生したとしても、この共済で積み立てたお金が奪われることはないのです。
個人事業者にとって、事業リスクはゼロにはできません。
しかし、長年コツコツ積み立てた老後の生活資金が守られるというのは、精神的にも大きな安心感につながります。
3 小規模企業共済の注意点
一方で、小規模企業共済にはメリットだけでなく、注意しておきたいポイントもあります。
(1)短期利用は不向き
小規模企業共済は国の制度であり、安心感と信頼性の高い仕組みですが、注意点もあります。
特に短期間で解約した場合には、掛金が戻ってこなかったり、元本割れしてしまうケースがあるのです。
そのため、「とりあえず数年だけ加入してみよう」といった短期的な利用には向きません。
あくまでも、長期的に積み立てていく制度として考えることが大切です。
具体的には、次のような場合に注意が必要です。
・積立期間が6か月未満の状態で廃業や死亡などが起きた場合、これまでの掛金は掛け捨てになります。
・積立期間が12か月未満で、上記以外の理由による解約や共済金の請求をした場合も、掛金は戻りません。
・積立期間が240か月(20年)未満の状態で任意解約すると、受け取れる解約手当金は、それまでに支払った掛金の合計額を下回ります。
このように、短期間で解約すると損をしてしまう可能性があるため、「長く続けてこそ価値がある制度」と意識して利用することが重要です。
(2)資金をすぐに引き出せない
掛金は積み立て式で、原則として中途解約しないと引き出せません。
そのため、「急な資金需要に備えたい」という目的には適していません。
急な運転資金が心配な場合は、別途流動性の高い預金や投資商品を用意してほうが無難です。
(3)掛金が負担になる可能性
事業が不振のときでも、掛金は毎月発生します。
最低掛金は1,000円ですが、負担感を強く感じる時期もあるでしょう。無理のない掛金設定が大切です。
4 まとめ
小規模企業共済は、個人事業主や小規模企業の経営者にとって、とても心強い制度です。
毎月の掛金を積み立てることで将来の退職金を自分で準備でき、しかも掛金は全額所得控除となるため節税効果も抜群です。
まさに「備え」と「節税」を同時に実現できる仕組みだといえるでしょう。
一方で、短期での解約では元本割れする可能性があることや、すぐに資金を引き出せないといった注意点もあります。
利用する際は、あくまで長期的な視点でコツコツ積み立てることが重要です。
個人事業を続けていくなかで、「もしものとき」や「将来の生活」に備えることは欠かせません。
小規模企業共済を上手に活用すれば、事業の安心感を高めながら老後資金を着実に準備することができます。
自分の働き方やライフプランに合わせて、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。
