本当に正しく商品を選べていますか?(投資家心理と投資行動⑥)

投資と聞くと、「数字やデータをもとに冷静に判断するもの」というイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。
たしかに合理的な計算は欠かせませんが、実際には私たち自身の「心のクセ」――心理的なバイアスが大きく影響しています。 

同じ情報でも伝え方ひとつで判断が変わったり、過去の数字や目先の情報に縛られてしまったりと、人は思っている以上に非合理な行動をとってしまうものです。
もしこうした心理の影響を意識せずに投資判断をしてしまうと、冷静さを欠き、結果的に望ましくない選択をしてしまう可能性があります。 

そこでこのコラムでは、人間心理と投資行動のつながりを整理しながら、個人投資家が気をつけたいポイントを分かりやすくお伝えしていきます。 

1 選択に対する心理的バイアス 

人は、「心のクセ」によって情報を正しく捉えらず錯覚することがあり、結果的に金融商品の選択を誤ることが少なくありません。その「心のクセ」をいくつか紹介します。 

(1)フレーミング効果 〜同じ情報でも表現によって判断が変わる〜 

フレーミング効果とは、同じ内容の情報でも提示の仕方によって人々の判断や選択が変わってしまう現象のことです。 

たとえば「この投資信託は過去10年間で年率平均5%のリターン」と言われるのと、「この投資信託は過去10年間で50%の確率で損失が出る可能性もあった」と言われるのでは、事実上同じ情報であっても受け手の印象は大きく異なります。 

そのため、投資家は、金融機関やメディアが示す「プラス面の強調」に引きずられやすくなります。
利益の可能性を前面に出された商品を選んでしまい、リスクを軽視する行動につながるのです。 
 

(2)アンカリング効果 〜最初の数字に縛られる〜 

アンカリング効果とは、最初に提示された数字や情報が基準(アンカー)となり、その後の判断に強く影響を与える心理現象のことです。 

株式投資では「過去の高値」がしばしばアンカーとなり、「以前は5,000円だった株が今は3,000円だから割安だ」と考えてしまうことがあります。 

投資家はしばしば「購入価格」に縛られます。
株価が下がっても「買値まで戻るまでは売りたくない」と考えるのは典型的なアンカリングです。
しかし、市場は過去の購入価格を基準には動きません。 

(3)デフォルト効果 〜与えられた初期設定に従いやすい〜 

デフォルト効果とは、人が与えられた初期設定(デフォルト)をそのまま受け入れてしまいやすい傾向を指します。
たとえば、勤務先の確定拠出年金のデフォルト商品がそのまま選択されるケースがデフォルト効果の典型例です。 

多くの人は「考えるのが面倒」という理由で初期設定を変更せず、必ずしも最適ではない運用を続けてしまいます。
そのため、自分に合ったリスク許容度や目標に即した運用ができず、結果として資産形成に遅れが生じることもあります。 

(4)極端の回避 〜無難な中庸を選んでしまう〜

 極端の回避とは、人が「極端な選択肢」を避け、中間的なものを選びやすい傾向のことです。 
たとえば、3つの投資信託が「手数料が高いが高リターンを狙う商品」、「低コストだが保守的な商品」、「その中間の商品」と並んでいると、多くの人は真ん中の商品を選びやすくなります。 

必ずしも「中庸」が合理的とは限りません。
リスク許容度が高い人が無難な商品を選べばリターンが不足し、逆にリスクを避けたい人が中間を選んでしまうと不必要な損失リスクを抱えることになります。 

(5)選択肢過多バイアス 〜選択肢が多すぎると判断が鈍る〜 

選択肢過多バイアスとは、選択肢が多すぎると人はかえって選べなくなる、あるいは不満を感じやすくなる心理のことです。 
たとえば、数百本ある投資信託の中から「最適な1本」を探すのは容易ではありません。
選択肢が増えるほど比較に時間がかかり、選んだ後も「本当にこれでよかったのか」と後悔しやすくなります。 

証券会社のサイトには膨大な商品が並んでいます。多くの投資家は「選べない」状態になり、結局無難なものや勧められたものを選んでしまうことになります。 

(6)選択の逆説 〜自由の多さが幸福を下げる〜 

選択肢過多バイアスに近いものに、選択の逆説があります。
これは、自由度が高く選択肢が多いほど、人はかえって不安や不満を抱きやすくなるという現象です。 

投資家は選択肢の多さを「自由」と感じる一方で、決断後に「もっと良い商品があったのでは」と悩み続けることがあります。 
迷いが長引くと投資開始が遅れ、時間という最大の武器を失うことになります。 

(7)おとり効果 〜比較対象に惑わされる〜 

おとり効果とは、明らかに劣った選択肢(おとり)が提示されることで、特定の選択肢がより魅力的に見えてしまう現象です。 

たとえば、A(低コスト・中リターン)、B(高コスト・高リターン)、C(Aより高コストでリターンは同等)という3つの商品があれば、BやCは選ばれにくいため、比較の結果Aが「合理的」に見えやすくなります。 

金融機関のなかには、おとり効果を利用して商品を並べていることがあります。 

(8)貨幣錯覚 〜名目に惑わされる〜 

貨幣錯覚とは、人が名目金額に注目し、実質的な価値を見落としてしまう傾向を指します。 
たとえば「配当が高い株」を魅力的に感じても、インフレ率や税金を考慮すれば実質リターンは低いかもしれません。 

 名目利回りだけを見て商品を選ぶと、実質的な資産形成につながらないことがあります。 

(9)フォーカス効果 〜特定の要素にとらわれすぎる〜 

フォーカス効果とは、人が意思決定の際に特定の要素だけを過大評価してしまう現象です。 
たとえば、「最近の成績が良いファンド」や「口コミで話題の株」ばかりに注目してしまい、長期的な安定性や分散効果を見落とすことがあります。 
短期的なニュースや一部のデータに過度に注目すると、ポートフォリオ全体のバランスを崩してしまいます。

2 心理的バイアスを乗り越えるための実践ポイント 

 現代では、私たちはさまざまな手段で膨大な情報を手に入れることができます。 
しかし、その情報をどう活かすかは最終的に「人」の判断にかかっています。 
以下のポイントを参考にしながら、情報を正しく理解し、より良い判断につなげていきましょう。 

(1)情報を多面的に捉える 

投資判断を誤らないためには、情報の受け取り方に注意が必要です。同じ内容でも提示の仕方によって印象が変わります。 

たとえば「高いリターンが期待できる」と言われれば魅力的に感じますが、「同時に大きなリスクもある」と考える視点が欠かせません。
ポジティブな情報にはリスクを、ネガティブな情報にはメリットを探す習慣を持つことで、よりバランスの取れた判断が可能になります。 

(2)判断基準は「今」と「将来」に置く 

投資家が陥りやすいのは、過去の買値や高値を基準にしてしまうことです。 

しかし、市場は過去に引きずられることなく動き続けます。 

投資判断の軸は「現在のファンダメンタル」と「将来の見通し」に置き換えるべきです。
株価が下がったからといって安いとは限らず、逆に過去の高値に戻る保証もありません。 

常に「これからどうなるか」を基準にする冷静さが求められます。 

(3)初期設定や中庸志向に流されない

 多くの投資家は、与えられた初期設定(デフォルト)や「中間を選べば無難」という心理に影響されがちです。 

しかし、デフォルトは必ずしも自分に最適な選択肢ではありません。
無条件にデフォルト商品をそのまま購入するのではなく、一度立ち止まって自分のライフプランやリスク許容度に合わせて見直すことが重要です。 

また「真ん中だから安心」という考え方も危険です。選択肢は常に「自分に合うかどうか」で評価するべきです。 

(4)選択肢を整理し、比較方法に惑わされない 

商品が多すぎると、人は選べなくなったり、後悔しやすくなったりします。
そこで有効なのが、あらかじめ基準を絞っておくことです。 

たとえば「インデックスファンドに限定する」「信託報酬は0.3%以下」といったルールを設ければ、余計な迷いを減らせます。 

また、金融機関が提示する比較方法や「おとり商品」に惑わされず、常に「自分の目的との適合性」を基準に選択する姿勢を持つことが大切です。 

(5)実質的な成果と全体像を意識する 

投資では名目の数字だけに惑わされず、実質的なリターンに目を向けることが重要です。 

配当や利回りを重視する際にも、税金・手数料・インフレを差し引いた実質的な成果こそが資産形成の本質です。 

さらに、個別の銘柄や一時的なパフォーマンスに囚われすぎず、資産全体のリスクとリターンのバランスを俯瞰することも忘れてはいけません。
「完璧な商品は存在しない」と理解し、選んだ後は長期的に続ける姿勢こそが投資成功への近道です。 

3 まとめ 

投資の世界では、情報があふれているからこそ「どう受け止め、どう判断するか」が何より大切になります。大事なのは、情報を一方向で見るのではなく、多面的に捉える姿勢です。 

ポジティブな情報にはリスクを、ネガティブな情報には可能性を探す習慣を持てば、冷静な判断につながります。 

投資の最大の味方は「正しい情報の理解」と「自分自身の冷静な判断力」です。焦らず、着実に、自分のペースで投資を続けていきましょう。