iDeCoの制度改正(2025年度)について教えて!

2025年度税制改正において、iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資産形成の促進と制度の利便性向上を目的として、多くの重要な変更が行われました。
この変更によって、皆さんの老後生活のための資金の作り方や受け取り方などに大きな影響があります。
そこで、このコラムでは、制度改正の背景、具体的な変更点、注意点、対応策などについてわかりやすく解説していきます。
目次
1 制度改正の背景と目的
日本では高齢化が進み、公的年金だけでは老後の生活資金が十分でない可能性が指摘されています。
加えて、働き方やライフプランの多様化により、これまでの私的年金制度では公平性に課題がありました。
こうした背景を受けて、勤務先の企業年金の有無や制度の違いに左右されず、誰もが継続的かつ平等に資産形成できるよう、iDeCoの制度が見直されました。
今回の改正により、iDeCoの利便性が向上し、より多くの人が活用しやすくなることが期待されています。
一方で、退職所得控除の計算における勤続期間の見直しが行われ、いわゆる「5年ルール」が「10年ルール」に変更されることになりました。
これは退職金が充実している会社員等とそれ以外の人との税制面での公平性を図ることが目的です。
この見直しにより、一時金を受け取るタイミングによっては大きな不利益になる場合が生じることになります。
2 【改善】 iDeCoの拠出限度額の見直し
(1)企業型DCとの併用ルールの緩和
これまでの企業型DC(企業型確定拠出年金)とiDeCoとの併用には制限がありましたが、企業型DCに加入している場合でもiDeCoが活用しやすくなりました。
(2)拠出限度額の増額
老後の安定的な生活をサポートできるように、物価・賃金上昇の上昇を踏まえて、iDeCoと企業型DCの拠出限度額が増額となりました。
これらの見直しにより、個人が積み立てることができる金額が増え、より多くの資産を老後に向けて準備することできるようになりました。
加入区分 | 現在 | 見直し後 | 増額 |
第1号 | 月額6.8万円(※1) | 月額7.5万円(※1) | 0.7万円 |
第2号 (企業年金あり) | 月額2.0万円 | 月額6.2万円(※2) | 4.2万円 |
第2号 (企業年金なし) | 月額2.3万円 | 月額6.2万円(※3) | 3.9万円 |
第3号 | 月額2.3万円 | 月額2.3万円 | なし |
(注)※1 iDeCoと国民年金基金との合算枠
※2 iDeCoと企業型DCとの合算枠
※3 iDeCoと iDeCo+との合算枠
3 【改善】加入継続年齢の引き上げ
今回の改正で、加入継続年齢が引き下げられました。この見直しにより、今まで60歳で脱退しなければいけなかった人も、さらに長期にわたり老後の資産形成を続けることができるようになりました。
①現状
現在のiDeCoの加入要件は「国民年金被保険者であること」です。
60歳以降の場合は、厚生年金被保険者または国民年金に任意加入している人のみ該当します。
つまり、自営業や専業主婦(夫)は、国民年金の納付期間が40年に達すると60歳以降にiDeCoに加入することはできません。
②改正後
以下の3つの条件(ア~ウ)をすべて満たしている場合に、iDeCoに加入することができます。
ア 60歳以上70歳未満であること
イ 老後資産形成をしてきた人で、(ア)または(イ)のいずれかを満たしていること
(ア)iDeCoの加入者または運用指図者であった人
(イ)企業型DCやDBなどからiDeCoに資産を移換できる人
ウ iDeCoの老齢給付金及び老齢基礎年金を受給していないこと
4 【改悪】退職所得控除の控除期間の見直し
(1)改正の概要概要
退職所得控除は、勤続年数が長くなるほど控除額が増えますが、退職一時金を受け取った年の前年より一定期間内にiDeCo等の一時金を受け取った場合、勤続期間の重複した部分が排除されるため、控除額が減ります。
この改正は、2026年1月1日以降にiDeCo等の一時金を受け取り、同日以後に退職一時金を受け取る場合に適用されます。
①改正前(「5年ルール」)
排除期間:受給年の前年以前4年以内
②改正後(「10年ルール」)
排除期間:受給年の前年以前9年以内
(2)事例
・60歳でiDeCoの一時金を受け取り、65歳で勤務先から退職金を受け取る
・勤務先からの退職金:1,800万円(37年間勤務)
・iDeCoからの一時金:500万円(15年間加入)
・iDeCoの加入期間と勤続年数との重複期間:15年間
①改正前
この場合、iDeCoの受け取りは退職金の受け取り年の前年4年以内ではないので、iDeCoの一時金、退職金とも退職所得控除を満額適用することができる。
・60歳時
iDeCo の一時金にかかる退職所得控除額は600万円(15年×40万円)であり、 iDeCo の一時金(500万円)を上回るため、税金はかかりません。
・65歳時
勤務先からの退職金にかかる退職所得控除額は1,990万円(800万円+17年×40万円)であり、退職金(1,800万円)を上回るため、税金はかかりません。
②改正後
この場合、iDeCoの受け取りは退職金の受け取り年の前年9年以内であるので、iDeCoの一時金は退職所得控除が満額適用することができますが、退職金は退職所得控除が調整の対象となり、一部減額されます。
・60歳時
iDeCo の一時金にかかる退職所得控除額は600万円(15年×40万円)であり、 iDeCo の一時金(500万円)を上回るため、改正前と同様に税金はかかりません。
・65歳時
勤務先からの退職金にかかる退職所得控除額は、iDeCoとの重複期間が除かれます。
したがって、退職所得控除額 はiDeCoの一時金の時の600万円を差し引き、1,390万円(1,990万円-600万円)となります。これにより、所得税は以下の計算から109,700万円かかります。
(参考)退職所得額=(1,800万円-1,390万円)×1/2=205万円
(3)対策
最も早くiDeCoの一時金を受け取ることのできるのは、60歳です。
「10年ルール」が適用された場合、退職所得控除を満額受け取るためには、70歳まで働き、その後退職金を受け取らなければなりません。
一般的には難しい人が多いのではないのではないでしょうか。
そこで、以下の2つの方法を参考に、自分に合った受け取り方を考えるのがいいと思います。
①年金として受け取る
iDeCoは、一時金のほかに年金として受け取ることができます。
その場合、他の公的年金と合算して雑所得として分類され、合算額から「公的年金等控除」が差し引かれます。
つまり、丸々すべての受取額が税金の対象になるわけではありません。
したがって、早々に税金が少なくなるようにして年金の形で受け取り、生活費や資産運用に回すことができます。
②そのまま資産運用を続ける
iDeCoは、最大で70歳まで加入することができ、75歳まで運用益に課税されずに資産運用をすることができます。
そのメリットを活かして、複利で老後資金を増やしてことができます。
この方法では、一時金で受け取るタイミングで課税されますが、その税金を上回る利益を確保することも可能です。
5 まとめ
2025年度のiDeCo制度改正は、老後資産形成の支援と制度の公平性・利便性向上を目的とした大きな見直しです。
特に、企業型DCとの併用制限の緩和や拠出限度額の増額、加入可能年齢の拡大は、より多くの人が柔軟に資産形成を続けられるようになる前向きな変更です。
一方で、「退職所得控除の控除期間の見直し」は、iDeCoの一時金と退職金の受け取り時期によっては、控除額が減少し税負担が増える可能性があります。
今後は、受け取り方を「年金方式」にする、もしくは「資産運用を継続する」など、個々のライフプランに応じた戦略がより重要になるでしょう。
改正内容を正しく理解し、長期的な視点で老後資金の準備を進めることが求められます。