コア・サテライト戦略って何ですか?

資産運用において「どのように投資商品を選び、どう組み合わせるか」は非常に重要なテーマです。
市場環境が日々変化する中で、安定的なリターンを目指しながらも成長のチャンスを逃さない戦略が求められます。
そのような中で注目されているのが「コア・サテライト戦略(Core-Satellite Strategy)」です。
この戦略は、リスクとリターンのバランスを取りつつ、長期的な資産形成を目指すための基本的かつ効果的なアプローチとして、投資初心者から経験豊富な投資家まで幅広く利用されています。
このコラムでは、コア・サテライト戦略の基本的な考え方、具体的な実践のポイントなどについて詳しく解説します。
目次
1 コア・サテライト戦略とは?
コア・サテライト戦略とは、資産全体を「コア(中核)」と「サテライト(衛星)」の2つに分けて運用する方法です。
コア部分で安定した運用を行い、サテライト部分で積極的な運用を試みることで、全体としてバランスの取れたポートフォリオを構築します。
この戦略の最大の特徴は、「守り」と「攻め」の役割を明確に分けることで、ポートフォリオ全体のリスクを管理しつつ、収益の可能性も追求できる点にあります。
・コア(Core)
資産の中核を成す部分で、安定性と継続的なリターンを重視。
主にインデックスファンドやETF、債券など、分散された低コストでリスクの低い商品で構成されます。
・サテライト(Satellite)
資産の一部で、リターンの上乗せを狙う攻めの運用。
個別株やアクティブファンド、新興国市場、不動産、テーマ型ファンドなどが該当します。
2 コア・サテライト戦略の基本構成
実際にこの戦略を導入する際には、以下のような資産配分が一般的です。
(1)コア部分
① 割合
60~90%
② 目的
長期的な安定成長と資産保全
③ 例
・全世界株式インデックスファンド
・米国株インデックスファンド
・債券ETF(国内外の債券に分散投資するもの)
・バランスファンド(複数資産に分散されたもの) など
(2)サテライト部分
① 割合
10~40%
② 目的
積極的なリターンの追求
③ 例
・個別銘柄(成長性のある企業や高配当株)
・テーマ型ファンド(AI、脱炭素、再生可能エネルギーなど)
・新興国株式ファンド
・アクティブファンド(優れたファンドマネージャーが運用)
・コモディティ など
3 コア・サテライト戦略が注目される背景
(1)低成長・低金利時代の長期化
世界的に「低成長・低金利」の時代が長期化しています。
特に2008年のリーマン・ショック以降、先進国の中央銀行は金融緩和を継続しており、金利は歴史的な低水準にとどまっています。
このような環境では、かつてのように預貯金や国債だけでは十分な資産形成が難しくなりました。
その結果、個人投資家はより高いリターンを求めて「投資」に目を向けるようになりましたが、同時にリスクの高い投機的な運用を避けたいというニーズも根強くあります。
このような背景から、安定性を保ちながら一部で積極運用も可能な「コア・サテライト戦略」が合理的かつ現実的な選択肢として評価されるようになったのです。
(2)インデックスファンドの普及と低コスト化
コア・サテライト戦略の「コア」部分を支える存在が、インデックスファンドやETF(上場投資信託)です。
これらの商品は近年、信託報酬の大幅な引き下げが進み、コスト面で非常に優れた運用手段となっています。
たとえば、eMAXIS Slimシリーズや楽天・全世界株式インデックス・ファンドなど、年率0.1%前後の低コストで世界中の株式に分散投資できる商品が次々と登場しています。
これにより、個人投資家でも簡単に、しかも安価に分散投資の恩恵を享受できるようになりました。
一方で、アクティブファンドや個別株といった「サテライト」部分を構成する商品も、テーマ性のあるETFや海外市場にアクセスしやすい証券口座の普及によって、選択肢が飛躍的に広がっています。
これらの環境整備が、「安定運用+積極運用」という戦略を現実のものにし、コア・サテライト戦略を身近な存在にしました。
(3)投資教育の浸透と「自分で選ぶ」時代の到来
日本でもNISAやiDeCoといった税制優遇制度の導入により、個人投資家のすそ野が拡大しました。
同時に、証券会社やメディア、書籍などを通じて投資教育が徐々に浸透し、「長期・分散・積立」といった運用の基本が一般的に知られるようになっています。
しかし、知識が増えたことによって「どの商品を、どのように組み合わせるべきか」という新たな課題が生まれました。
単純に人気のファンドに投資するだけでは、自分の目的やリスク許容度に合った運用ができるとは限りません。
その中で、明確に役割を分けることができるコア・サテライト戦略は、「どう資産を配置すべきか」という問いに対して非常に有効なフレームワークとして注目されています。
・「コア」で堅実に積み立てて、将来の資産形成を支える。
・「サテライト」で自分の興味や信念を反映した投資を行い、楽しみながらリターンを狙う。
このように、合理性と個別性を両立できる点が、情報化社会に生きる個人投資家にマッチしているのです。
(4)不確実性の時代に求められる「柔軟性」
現代の経済・社会情勢は、以前に比べてはるかに不確実です。
新型コロナウイルスによる経済停滞、地政学的リスク(ロシア・ウクライナ情勢、米中対立など)、気候変動による産業構造の変化などの要素が複雑に絡み合い、未来を見通すのが非常に難しい時代になっています。
このような時代において、特定のセクターや国に過度に依存したポートフォリオは、大きなリスクを抱えることになります。
一方で、すべてを守りに徹していては、資産の成長は望めません。
コア・サテライト戦略は、この不確実性に対して高い「柔軟性」を発揮します。
・市場全体の恩恵を受ける「コア」で基盤を固めながら、
・社会変化の兆しに乗る「サテライト」で柔軟に対応する。
たとえば、AI、脱炭素、ヘルステックなど、成長テーマにサテライトで投資しつつ、全世界株式やS&P500などのインデックスをコアに据えておくことで、守りと攻めの両方を担保できます。
(5)投資スタイルの多様化とパーソナライズの重要性
かつては「お金はプロに任せる」「証券会社に言われたまま投資する」というスタイルが一般的でした。
しかし、近年は個人の投資スタイルが多様化しており、自分の価値観やライフスタイルに合った運用をしたいというニーズが高まっています。
コア・サテライト戦略は、こうしたニーズに応えられる柔軟な枠組みを提供してくれます。
・家族を持つ投資家は、生活の安定を重視してコア部分を厚めに
・若年層の投資家は、将来の成長を狙ってサテライト比率をやや高めに
・社会課題に関心のある人は、ESGやインパクト投資をサテライトに組み込む
このように、同じ戦略でも投資家ごとに自由にカスタマイズできることが、多様なニーズにマッチし、今後ますますの普及が期待される理由です。
4 実践のポイント
コア・サテライト戦略の実践において大切なのは、「合理性と個性の両立」です。
コアで堅実に市場全体の成長を取り込み、サテライトで自分の投資テーマや信念を表現することによって、運用の継続性と納得感が高まります。
特に投資初心者にとっては、すべてを積極運用に任せるのではなく、まずは「守りの軸」を固めた上で「攻め」の部分を徐々に育てていくという考え方が、長期的な資産形成において非常に有効です。
(1)コアとサテライトの比率設定
コア・サテライト戦略において最初に決めるべきは、ポートフォリオ全体における「コア」と「サテライト」の比率です。
一般的には「コア70%:サテライト30%」の構成が推奨されることが多いですが、これはあくまで目安です。
・安定志向・リスク回避型 → コア80〜90%、サテライト10〜20%
・成長志向・積極型 → コア60%前後、サテライト40%程度
たとえば、老後の生活資金を着実に積み立てたいという人であれば、コア比率を高めにするのが適しています。
一方で、若年層で投資歴が浅く、「学びながら増やしたい」という人はサテライト比率をやや高めてもよいでしょう。
ここで大切なのは、自分のリスク許容度やライフステージなどに応じて、運用目的に合った比率を見つけることです。
(2)コアの資産選び
コアの役割は、「市場全体の成長を確実に捉えること」と「資産全体の安定性を支えること」です。
その点で、コアには、低コスト・広範囲・長期保有に適したETFや投資信託を選ぶのがおすすめです。
・信託報酬が年0.3%以下のものを目安にする
・資産規模(純資産総額)が安定しているものを選ぶ
・毎月積立がしやすい(NISAやiDeCo対応)商品かを確認する
(3)サテライトの資産選び
サテライトは、コアとは異なり「積極的にリターンを狙う部分」、「個人の価値観や好みを反映できる部分」として機能します。
多少のリスクは許容しつつ、自分なりの運用方針を明確に打ち出せるのが魅力です。
自分が持っている「関心」・「信念」・「テーマ性」などを重視して商品を選ぶといいでしょう。
・自分が関心を持てる分野に投資する
・投資対象のニュースやトレンドを自然に追えるため、継続しやすい
・成長性とリスクのバランスを見る
・魅力的なリターンがあっても、過去のボラティリティ(値動きの激しさ)に注目
・サテライト自体も2〜3テーマに分散することで、リスクを軽減
(4)リバランスの重要性
コア・サテライト戦略を実践する上で忘れてはならないのが「リバランス」です。
市場の値動きによって、徐々にコアとサテライトの比率がずれていきます。
このような場合、本来の投資方針から外れてしまい、リスクが過剰に高まっている可能性があります。
これを防ぐためには、以下のことが推奨されます。
・年に1回〜半年に1回の頻度で比率のずれを確認する
・ポートフォリオ全体の構成比を見直す
・必要に応じてリバランス(利益確定・再配分)を行う
特に長期投資においては、「方針を守る仕組み」を作ることが成功のカギになります。
(5)メンタル管理と継続力
どんなに戦略を整えても、相場が下落したときに慌てて売却してしまえば、元も子もありません。
コア・サテライト戦略は、そうした感情のブレに対応するうえでも有効です。
・「コアは基本的に売らない、積み立てを継続する」
・「サテライトで柔軟に対応し、好機を狙う」
このルールを守ることで、相場に一喜一憂せず、メンタルを安定させることができます。
特にコア資産は「将来のための柱」だと認識して、価格変動に動じずに保有し続けることが重要です。
5 まとめ
コア・サテライト戦略は、「長期・分散・低コスト」といった投資の基本を押さえつつ、自分の関心や判断を活かしてリターンを高める柔軟な手法です。
コアで安定的な資産形成を図りながら、サテライトでテーマ性や成長性のある投資に挑戦できるため、初心者から上級者まで幅広い投資家に適しています。
市場環境の変化や投資商品の多様化により、情報が溢れる現代では「合理性と個性を両立した運用」が求められています。
そうした中で、コア・サテライト戦略は、自分に合った投資スタイルを確立しやすく、計画的かつ納得感のある資産形成を可能にします。
まずは仕組みを理解し、少しずつ実践に取り入れていくことが成功への第一歩です。
資産運用の軸として、ぜひ取り入れてみてください。