新興国株投資って危険ですか?

世界経済の成長を取り込みたいと考える投資家にとって、新興国株式への投資は魅力的な選択肢の一つです。
経済成長率が高く、人口増加や都市化、所得の増加といった構造的な追い風を背景に、新興国市場は長期的に大きなポテンシャルを秘めています。
一方で、新興国投資には特有のリスクも存在するため、その特徴を正しく理解し、リスクとリターンのバランスを見極めることが重要です。 

このコラムでは、新興国株式への投資の基本的な考え方、代表的な国や市場、魅力・リスク、具体的な投資手法について説明したいと思います。 

1 新興国とは?

 新興国(Emerging Markets)とは、先進国と発展途上国の中間に位置する経済規模や発展段階にある国々を指します。
国際通貨基金(IMF)やモルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)などがそれぞれ独自に分類していますが、一般的には以下のような国々が新興国に該当します。 

・中国・インド・ブラジル・メキシコ・インドネシア・韓国・南アフリカ・トルコ・タイ・フィリピン など 

また、新興国の特徴としては、以下のことが挙げられます。 

①高い経済成長率 

多くの新興国は年5〜7%前後の成長率を維持しており、先進国よりも速いスピードで経済規模を拡大している。 

②人口構造の若さ 

若年層の割合が高く、労働力人口の増加が見込まれている。 

③都市化・中間層の拡大

 農村から都市への人口移動と所得の増加により、内需拡大が期待される。 

2 代表的な市場・国の特徴 

(1)中国 

・規模と統制が共存する超大国市場 

・経済規模:世界第2位のGDP 

 ・主要産業:IT、通信、電気自動車、エネルギー、不動産 

中国は、新興国の中でも群を抜いた規模と影響力を持つ市場です。
「世界の工場」から「世界の消費地・技術革新拠点」へと進化し、アリババ、テンセント、BYD、バイドゥといった世界的企業を輩出しています。
政府主導のインフラ投資や都市化政策により、内需の拡大が続いています。 

しかし、政府による市場への介入や規制強化が頻繁に発生する点には注意が必要です。
特に2021年以降は、テック企業や教育産業に対する取り締まりが株価に大きな影響を与えました。
また、地政学的リスク(米中対立や台湾問題など)も投資家にとっての懸念材料です。 

<投資のポイント> 

・国家戦略と連動するテーマ(AI、自動車、グリーンエネルギー)に注目 

・政治リスクを踏まえた分散投資が重要 

(2)インド 

・人口とITで牽引する長期成長市場 

・経済規模:世界第5位 

・主要産業:IT、医薬品、金融、製造業 

インドは、若年人口の多さとITサービスの世界的競争力を背景に、今後数十年にわたり成長が見込まれる市場です。
人口は2023年に中国を抜いて世界一となり、中間層の拡大も本格化しています。 

また、英語教育の普及と民主主義の土台により、海外からの直接投資(FDI)も増加中です。
TCS(Tata Consultancy Services)やInfosysなどのIT大手は、世界中の企業向けにソフトウェア開発や運用支援を提供しています。 

一方、インフラ整備の遅れや官僚主義の非効率性、電力・水道などの基本インフラの不安定さは依然として課題です。 

<投資のポイント>

 ・インド株インデックスファンドやETFで広く分散 

・ITセクター、消費関連、金融セクターが有望 

(3)ブラジル 

・資源に支えられた高リスク・高リターン市場 

・経済規模:南米最大 

・主要産業:鉄鉱石、原油、農産物、銀行 

ブラジルは、資源大国として知られており、コモディティ価格の上昇局面で大きな利益を得る企業が多くあります。
国営石油会社のペトロブラス(Petrobras)や鉱山会社ヴァーレ(Vale)は世界的に有名です。 

また、南米における地政学的中心国であり、経済の多様性もありますが、政治の不安定さ(汚職スキャンダル、選挙での混乱など)やインフレの影響を強く受けやすい国でもあります。 

ブラジルレアルは為替の変動幅が大きく、円ベースでの投資パフォーマンスには大きな影響があります。

<投資のポイント> 

・資源価格と連動する銘柄への投資でリターンが期待できる 

・通貨リスクと政治リスクに要注意 

(4)インドネシア 

・人口ボーナスが進行するASEANの中心 

・経済規模:ASEAN最大(GDPで世界16位) 

・主要産業:石炭、パーム油、電子機器、金融 

インドネシアは、人口約2.8億人を抱えるASEAN最大の市場です。
中間層の増加や都市化の進展により、内需主導型経済として注目されています。
若年人口の比率も高く、今後数十年にわたって労働力の供給が続くと予測されています。 

また、イスラム金融の拠点としても成長中で、他の東南アジア諸国と比べて資源依存度がやや高いのが特徴です。
政治的には比較的安定していますが、汚職問題や交通インフラの脆弱性が課題です。 

<投資のポイント> 

・金融・通信・インフラ関連銘柄が注目 

・ETFやASEANファンドを通じた投資が現実的 

(5)ベトナム

 ・東南アジアの次世代成長国 

・経済規模:急成長中(GDPはASEAN内で6位) 

・主要産業:製造業、繊維、IT、観光 

ベトナムは、「第二の中国」とも呼ばれるほど、近年の成長スピードが著しい国です。
低コストの労働力を背景に、韓国や日本、欧米企業の製造拠点が多数移転しており、電子部品・アパレルの輸出が急増しています。 

また、国内消費も活発化しており、ショッピングモールや金融サービスの需要が拡大しています。
今後は、中所得国への移行と高付加価値産業の育成がカギとなります。 

ただし、株式市場の整備が遅れており、外国人投資家への制限も残っている点はデメリットです。 

<投資のポイント> 

・インフラ・製造業関連ETFやベトナム株ファンドが有望 

・長期的視点で成長を狙うのが基本 

(6)韓国 

・成熟した産業と高いテクノロジー水準の「先進的新興国」 

・経済規模:世界第13位(IMF推計) 

 ・主要産業:半導体、自動車、化学、バイオ、エンタメ 

韓国はOECD加盟国でありながら、MSCIの分類では**「新興国」**に区分されています(2025年現在)。
これは、外国人投資家に対する一部規制やウォンの国際化の遅れなどが理由とされています。 

サムスン電子やSKハイニックスといったグローバル競争力の高いテック企業を多数抱え、半導体やITデバイスでは世界有数の供給元です。
また、K-POPや韓流ドラマに代表されるコンテンツ産業も輸出力が強く、ソフトパワーを活かした成長も注目されています。 

ただし、少子高齢化の進行や中国経済への依存度の高さ、地政学的には北朝鮮との関係というリスク要因もあります。 

<投資のポイント> 

・半導体、バイオ、エンタメ関連銘柄が強み 

・韓国ETFや韓国インデックス投信で分散投資が現実的 

3 新興国への株式投資の魅力

(1)高い成長性 

新興国の最大の魅力は、やはり高い成長性です。
経済が拡大するにつれて企業の業績も伸びやすくなり、株価の上昇が期待できます。
たとえば、中国やインドなどの国々では、ITや通信、金融、エネルギーなどの分野で急成長する企業が多く登場しています。 

(2)分散投資効果 

日本やアメリカ、ヨーロッパといった先進国の株式に偏ったポートフォリオでは、世界の経済変動に対する耐性が限定的になります。
新興国株式を加えることで、地域的な分散効果が得られ、ポートフォリオ全体のリスクを軽減する可能性があります。 

(3)割安なバリュエーションョン 

多くの新興国市場では、先進国に比べて株価の指標(PERやPBRなど)が割安な場合が多いです。
成長余地がありながら割安に放置されている銘柄に投資できる可能性があります。 

4 新興国への株式投資のリスク 

新興国株式は成長期待が高い一方で、特有のリスクも存在します。 

(1)政治・制度リスク 

新興国では政情不安や制度の未整備、汚職などが企業活動や市場に大きな影響を与えることがあります。
突発的な政策変更や通貨制限など、投資家にとって予測が難しい事象も多く存在します。 

(2)為替リスク 

新興国の通貨は米ドルや円に比べて大きく変動する傾向があり、現地通貨建てで株価が上昇しても、為替レートの変動で円換算ベースでは損失となる可能性があります。 

(3)流動性の低さ 

市場によっては取引量が少なく、株式の流動性が低いことがあります。
このため、大口の売買や市場の混乱時には価格変動が激しくなる可能性があります。 

(4)情報の透明性・信頼性 

新興国では企業の情報開示が不十分だったり、会計基準が先進国と異なるケースがあるため、投資判断の材料となる情報が限定的である可能性もあります。 

5 成功のための投資戦略 

(1)長期投資の視点を持つ 

新興国は政治・経済の不安定さから、短期的には株価が乱高下しやすい傾向があります。
しかし、人口増加や都市化、経済発展といった構造的な成長要因を考慮すれば、長期的には大きなリターンが期待できる市場です。 

よって、一時的な下落に動揺せず、長期的な視野で投資を継続する姿勢が重要となります。
時間を味方につけることが、新興国株式投資における最大の武器です。 

(2)分散投資の徹底 

新興国は一国ごとのリスクが大きいため、国・地域・業種の分散が極めて重要です。
たとえば、政治的混乱が起きた一国の株式市場が急落した場合でも、他国が堅調ならポートフォリオ全体の影響を和らげられます。 

具体的には以下のような分散戦略が有効です。 

・地域分散:アジア、南米、東欧、アフリカなど 

・国別分散:中国、インド、ブラジル、インドネシア、ベトナム、韓国など 

・セクター分散:IT、金融、素材、消費関連など 

ETFや投資信託を利用すれば、比較的容易に分散投資を実現できます。 

(3)インデックス投資の活用 

個別株での新興国投資は、情報の透明性が低く、調査・判断が難しいケースが多くあります。
そのため、MSCIエマージング・マーケット・インデックスなどの新興国株指数に連動するETFや投資信託を活用することで、効率的かつ安全に投資できる可能性が高まります。 

これらの商品は複数の国や企業に分散投資されており、個別銘柄のリスクを軽減しつつ、新興国全体の成長を享受できます。 

信託報酬や運用方針、対象国の比率などを比較して、自分のリスク許容度に合った商品を選びましょう。 

<主なETFの例> 

・iShares MSCI Emerging Markets ETF(EEM) 

・Vanguard FTSE Emerging Markets ETF(VWO) 

<主な投資信託の例(日本国内)> 

・eMAXIS Slim 新興国株式インデックス 

・SBI・V・新興国株式インデックス・ファンド など 

6  MSCIエマージング・マーケット・インデックス 

新興国の株式指数のうち、最も代表的な指数の1つに「MSCIエマージング・マーケット・インデックス(MSCI Emerging Markets Index)」があります。 

「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」は、米国の大手金融サービス会社MSCI Inc.(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が算出・公表している株価指数で、新興国市場の株式のパフォーマンスを測る代表的な指標です。
1988年に設定されて以来、世界中の投資家が新興国市場のベンチマークとして活用しています。 

(1)特徴と構成 

この指数は、中型株・大型株を中心に新興国の株式を広く網羅しており、2025年現在では20数カ国、約1,400銘柄が組み入れられています。 

構成国はMSCIが独自の基準で「新興国」と判断した国々で構成比は時期によって変動しますが、現在はアジア圏の比重が大きく、中国とインドの存在感が非常に高いのが特徴です。 

(2)組入上位10カ国・地域 

 国・地域 構成比率 
1 インド 18.7% 
2 ケイマン諸島 17.8% 
3 台湾 16.3% 
4 中国 10.6% 
5 韓国 9.1% 
6 ブラジル 3.9% 
7 サウジアラビア 3.9% 
8 南アフリカ 2.8% 
9 メキシコ 2.0% 
10 アラブ首長国連邦 1.4% 
 上位10カ国・地域合計 86.5% 

※2025年4月30日現在 

(3)組入上位10業種 

 業種 構成比率 
1 銀行 18.3% 
2 半導体・半導体製造装置 11.4% 
3 テクノロジー・ハードウェア・機器 7.5% 
4 メディア・娯楽 7.0% 
5 一般消費財・サービス流通・小売り 5.9% 
6 素材 5.7% 
7 資本財 4.5% 
8 エネルギー 4.3% 
9 自動車・自動車部品 3.8% 
10 食品・飲料・タバコ 3.0% 
 上位10業種合計 71.4% 

※2025年4月30日現在 

(4)組入上位10銘柄 

 銘柄 国・地域 業種 構成比率 
1 台湾セミコンダクター 台湾 半導体 8.5% 
2 テンセント(中国) ケイマン諸島 メディア・娯楽 4.9% 
3 アリババ(中国) ケイマン諸島 一般消費財小売り 3.0% 
4 サムスン電子 韓国 テクノロジー機器 2.3% 
5 HDFC銀行 インド 銀行 1.6% 
6 シャオミ(中国) ケイマン諸島 テクノロジー機器 1.2% 
7 リライアンス・インダストリーズ インド エネルギー 1.2% 
8 ICICI銀行 インド 銀行 1.1% 
9 中国建設銀行 中国 銀行 1.0% 
10 メイトゥアン(中国) ケイマン諸島 消費者サービス 1.0% 
 上位10銘柄合計   25.8% 

※2025年4月30日現在 

7 まとめ 

新興国株式への投資は、世界経済の成長を取り込む有効な手段です。
高い成長性を享受できる一方で、政治・為替・情報の信頼性といった特有のリスクもあり、冷静な判断と継続的な管理が求められます。 

成功のポイントは、リスクとチャンスを正しく理解し、長期的な視点と分散投資を徹底することです。
中国やインドなどの巨大市場から、ベトナムや韓国のような特色ある国々まで、新興国には多彩な可能性が広がっています。 

ETFや投資信託を活用し、着実な資産形成を目指しましょう。